公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2024.04.15 (月) 印刷する

韓国政治のブレをどう見るか 荒木信子(朝鮮半島研究者)

韓国では4月10日投票の総選挙結果が判明し、2027年に予定される次の大統領選挙も視野に入ってきた。日本からすると、選挙ごとに左右に揺れる韓国の政治的ブレが気にかかるが、この現象をどのように見たらよいのだろうか。
 

一寸先は闇

韓国で政治的なブレはこれまでも激しいものがあった。韓国建国(1948年)以降に限っても、歴代大統領の末期あるいは退任後は平穏と言えなかった。

例えばよく知られるように、韓国の初代大統領李承晩は約12年間在任したが、最後はその腐敗ぶりに怒った学生らのデモによって退陣させられ、米ハワイへ亡命した(1960年)。クーデターで権力を掌握した朴正煕は、側近に殺害されるという衝撃的な最期を遂げた(1979年)。

それ以降の大統領も、投獄されて死刑判決を受けたり(のちに減刑され特赦)、自死したりと、波乱の人生を送った。それを思えば、前大統領の文在寅は今のところ穏やかに暮らしている。

その文が大統領に就任するきっかけとなった前任者朴槿恵の弾劾(2017年)に至る動きは、韓国政治の恐ろしさを見せつけた。朴の友人が絡むスキャンダルや、乗客多数が死亡した旅客船セウォル号事故への大統領の対応の拙さが問題となった。

友人の娘が名門大学に不正入学したことに国民が過剰反応する問題もあったし、この騒動を政治的に利用した勢力がいたのも事実だった。それにしても、自分たちが選んだ大統領に対し、煽られてあれほどの憎悪を向けるものかと、恐ろしささえ感じた。
  

目先の利益に関心

古い話だが、よく知られているのは、民族系、共産系を問わず、日本統治時代の独立運動家たちの分裂と対立の熾烈さである。当時の朝鮮総督府治安当局さえ、その党派性に言及している。

終戦後、かつての独立運動家たちは新しい時代の権力を握ろうと激しい政争を繰り広げた。朝鮮半島では戦前から、人望のある政治家、古くからの共産主義者は次々とテロに倒れてしまった。

李承晩はその反日活動ゆえ、青年期以降を主にハワイで過ごし「韓国臨時政府」内部で激しい抗争を続け、終戦後に朝鮮半島に帰った人である。

終戦から間もなく平壌に現れた金日成という若者は、民族の伝説の英雄である別人の将軍キム・イルソンであると詐称して、ソ連の後ろ盾で北朝鮮の権力を握った。

このように朝鮮半島は前の時代との断絶を繰り返してきたわけだが、前の時代が否定され積み上がっていかない。現在は多少穏やかになったとはいえ、大統領が退任後、厳しい目に遭うのもこれと通底していないだろうか。

こんな歴史の中で、人々の関心はどちらの側につくのが有利かに向き、短期的利益を得ようとするのも無理はないように思えてくる。これが傍目にはブレと映るのではないだろうか。ここに国際情勢が絡むと、いっそう複雑な様相を呈するのだろう。日本は引きずられてはいけないと考える。(了)