公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2024.10.01 (火) 印刷する

総裁選で変わらぬメディアの対応 石川弘修(国基研企画委員)

9月27日の自民党総裁選挙で、岸田文雄首相に代わる新総裁に石破茂元幹事長が選ばれた。10月1日召集の臨時国会で第102代首相に選出される。1回目の投票でトップだった高市早苗経済安全保障担当相は、上位2人の決選投票で、僅差で敗れた。左派、リベラル色の強い新聞やテレビによる前回3年前の総裁選をも上回る偏向報道にもかかわらず、高市氏が健闘したのは、中国の軍事的脅威や、性的少数者への行き過ぎた配慮など過激なリベラル運動に対する保守層の危機感の表れといえよう。

高市氏に負のイメージ植え付け

総裁選に立候補した9人のうち、当初は「本命」と見られた小泉進次郎元環境相が民放テレビのモーニングショーなどに盛んに取り上げられ、女性や若者の集票力があるとしてもてはやされたのに対し、高市氏は安倍晋三元首相に近かったために、旧安倍派のパーティ収入不記載問題に絡んで意図的に負のイメージを植え付けられることが多かった。高市氏は民放テレビに登場する機会も少なく、テレビ局側に「高市外し」の意図さえ感じられた。

さらに左派系メディアは、高市事務所がルール違反をして政策リーフレットを全国の自民党員に郵送したように報道した(高市事務所は党本部から郵送禁止の通知が届いたのはリーフレット発送後だった、と違反行為を否定)。また、産経新聞を除くほとんどの新聞、テレビは、高市氏は首相になっても靖国神社参拝を続け、日中関係を危うくすると指摘し、不安感を煽った。朝日新聞が総裁選のさなかに安倍元首相と旧統一教会幹部の面会写真を入手したと大々的に報道したのも、高市氏に間接的にダメージを与える意図があったのではないか勘繰りたくなる。

討論会質問者に産経も加えよ

高市氏は、核持ち込みの容認など非核三原則の一部見直し、中国軍機による日本領空の侵犯や中国における日本人児童殺傷事件に対する抗議の徹底、選択的夫婦別姓制度への反対など、内外の諸問題について対応策を積極的に公表している。だが、メディアは中国絡みの問題などに踏み込むことをしない。

たとえば、9月21日に行われた日本記者クラブ主催の総裁選立候補者討論会で、台湾有事などにおける対中防衛策の強化、ロシアのウクライナ侵攻に学ぶ核保有国への自衛策、自衛隊を明記する憲法改正、原子力発電所の新増設、外国人労働者受け入れ対策などで突っ込んだ意見の交換はほとんどなかった。石破氏のアジア版NATO(北大西洋条約機構)創設構想などは実現への道筋が見えず、画餅に等しい。

立候補者に質問を浴びせたクラブ側企画委員は読売、朝日、毎日、日経4紙のベテラン編集委員、論説委員だが、毎度のことながら保守論調を明確にしている産経は参加していない。まずメディア側の慣行を変える時が来たのではないか。

米国退潮の中で、日本の一層の役割増大が求められている今日、国政選挙で多数を制して権力を維持することが最大の目的になっているような自民党では、国の将来が危うい。(了)