ロシアのプーチン大統領は、同国カザンで10月下旬に開いた主要新興国によるBRICS首脳会議で、ウクライナ侵略に対する免罪符の獲得に失敗した。プーチン氏は加盟国を5カ国から9カ国に拡大した「BRICSプラス」の初開催をテコに、欧米によるロシア孤立政策の「失敗」を印象付け、制裁解除の足掛かりにしようと目論んだ。しかし、「制限なし」の協力を侵攻直前に誓ったはずの中国から、逆に侵略戦争を終わらせるよう求められた。
習主席が戦争終結を要求
BRICSプラスは、BRICSの呼称の元になったブラジル(B)、ロシア(R)、インド(I)、中国(C)、南アフリカ(S)の5カ国に、イラン、エジプト、アラブ首長国連邦(UAE)、エチオピアが加わり、9カ国に拡大した。世界の人口の46%、国内総生産(GDP)の35%、原油の生産と輸出の40%を占める。加盟国はなお拡大しそうだ。戦争犯罪で国際刑事裁判所から逮捕状が出ているプーチン氏にとって、自国での会議開催はウクライナ侵略の正当性主張に非欧米の有力国を巻き込むまたとないチャンスだった。
プーチン氏は今回の首脳会議で、「欧米は他者支配の論理に従い、制裁など不健全な手法により世界を不安定化させている」と主張し、米国の世界金融支配を攻撃した。さらに、ウクライナ情勢に関しても議長国の立場を利用し、ロシアに戦略的敗北を与えようとする欧米側の試みは「幻想だ」と同調を求めていた。
ところが首脳会議2日目の10月23日、反米枢軸の伴走者である中国の習近平国家主席から、ウクライナ紛争の終結を求める直接的な注文を受けた。習氏は、ウクライナでの事態をできるだけ早く収拾するため、①戦場を拡大させない②戦闘を激化させない③当事者が火に油を注がない―という「三つの原則を堅持しなければならない」と戒めた。インドのモディ首相も、特定の紛争には言及せずに、「我々は戦争ではなく、対話と外交を支持する」と平和を求める呼び掛けを行っている。
過剰な連携から後退する中国
この会議を通じて明確になってきたのは、中国のロシアに対する過剰な連携からの緩やかな後退であった。中露蜜月を象徴する表記は、ウクライナ侵攻直前の2022年2月、北京冬季五輪開会式出席のためプーチン氏が訪中した際に登場した。中露首脳会談後の共同声明に、両国の協力に「制限なし」とする歴史的な誓約が盛り込まれたのだ。
しかし、今年5月に北京で開催された首脳会談後の共同声明では、この言葉が消えていた。プーチン氏が両国を「兄弟のよう」と形容して中国に媚びても、習氏は支援をせびりに来た人物の賛辞に同調することはなかった。
それ以降、中国内では中露連携に対する疑問の声が半ば公然と議論されるようになった。上海にある復旦大学の沈丁立教授は、中国はウクライナはじめ他の国にロシアと協力していると見られたくないと述べている。中国の元欧州連合(EU)大使も、無制限の友情は「単なるレトリックに過ぎない」と言っている。
背景に中国経済低迷も
中国がロシアとの連携を評価し直している背景に一つには、ロシアによるウクライナ侵略戦争の苦戦で、ロシア軍の能力に懐疑心を高めていることがある。さらに、中国経済の低迷から貿易面で欧米に依存せざるを得ないという事情もある。プーチン氏は米中の戦略的競争を利用しており、経済的な余裕を失っている中国は、ロシアに操られることに警戒感が強くなっている。かくてプーチン氏のBRICS活用の思惑は大きく外れた。(了)