公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2024.10.21 (月) 印刷する

中国軍の台湾封鎖演習が持つ意味 中川真紀(国基研研究員)

中国人民解放軍東部戦区は10月14日、陸海空ロケット軍等による統合演習「聯合利剣‐2024B」(以下、「B」)を実施した。5月の「聯合利剣‐2024A」(以下、「A」)に続く台湾周辺における大規模統合演習である。

今回の演習も「A」と同様、台湾に対する海上封鎖が主要テーマであったが、展開戦力の質と量を増強させ、台湾及びそれを支援する米国等への政治的メッセージを含んだものでもあった。

短時間での展開能力を誇示

最初に、今回の演習の概要を「A」との比較で説明する。

(1)演習期間
「A」が5月23~24日の2日間であったのに対し、「B」は14日の1日だけ(午前5時~午後6時)で終了した。これは「A」よりも高速化を追求し、移動開始から13時間で海上封鎖のための戦闘展開が可能であることをアピールしたと考えられる。

(2)演習区域
台湾本島周辺の演習区域は6か所であり、いずれも「A」より台湾の重要港湾に近い位置に設定された。港湾封鎖を重視し、台湾の生命線、外国からの支援線、政権の逃亡線を遮断するとアピールした。但し、台湾の領海内には演習区域を設定せず、実際に衝突を招くような事態は回避したいとの意図も示したと見られる。

(3)展開兵力
台湾国防部の発表によると、14日に確認された中国軍機は延べ153機であり、5月23、24日のそれぞれ延べ49機、62機に比べ大幅に増加、また飛行空域もより台湾東岸に拡大した。また、海上では演習区域内で海軍艦艇とほぼ同数の海警船が確認された。中国海警局は最大の1万トン級の海警船を含む4個編隊で台湾周回パトロールを実施したと表明しており、「A」に比べて海警による臨検等の訓練を強化した。

主目的は米台への政治的メッセージ

今回の演習における中国の企図は何か。それを推察する上で、まず前提として承知しておかなければならないのは、中国が「B」の実施を事前に示唆していたことだ。台湾の頼清徳総統就任(5月20日)直後の聯合利剣を2024Aと呼称した時点から、「B」は次の節目である双十節(10月10日=中華民国建国記念日に相当)後に行うことは想定内であり、また前日の10月13日には東部戦区が「B」の開始を暗示するプロモーションビデオを公表している。台湾国防部も13日、中国海軍の空母「遼寧」が西太平洋へ向けて航行中と発表しており、14日に「B」が開始されると予想し、準備していた可能性が大きい。

即ち「B」は、演習中における台湾の過度の政治的反応や、中台両軍の偶発的衝突を回避する措置を講じた上で、台湾、米国等に対し、「中国は海上封鎖を含む様々なオプションを取ることが可能であり、それを実行に移させるような軽々しい行動を取るな」という政治的メッセージを送ることが主目的だったと考えられる。また、中国国内に向けては、頼総統の「新二国論」への強硬姿勢を示し、習近平体制は弱腰との批判を回避するという効果も狙ったものと思われる。

日本に必要な奇襲侵攻への備え

「B」演習を通じ、日本が考えねばならぬことは以下の諸点である。

(1)日本周辺での海警船運用の変化の有無
「B」で台湾周回パトロールを実施した海警の編隊は、東シナ海の日中中間線付近や尖閣諸島周辺のパトロールを担当している支隊から送り込まれている。今後、中国が台湾周辺での任務をより重視した場合、日本周辺海域での海警船運用に変化が生じる可能性もある。

担当支隊以外からの増援や、隻数が減少した場合の海警船の武装強化や海軍との連携強化も考えられ、台湾周辺での海警船の動向と併せて注視する必要がある。

(2)海上封鎖時の対応準備
「B」では13時間で海上封鎖のための展開が可能なことをアピールしたが、これは、在日米軍が台湾支援のため展開する前に海上封鎖の態勢を完了する、というメッセージとも受け取れる。これに対し、1日で海上封鎖された場合、在台邦人の保護と輸送、シーレーンの安定的利用の確保、そして日本の台湾支援方法について準備しておく必要がある。

(3)上陸侵攻への対応準備
中国は2022年以降、台湾周辺で海上封鎖をテーマとした大規模統合演習を繰り返し実施している。これは台湾及び国際社会への圧力と同時に、中国の侵攻は海上封鎖から始まるとの刷り込みを行っている可能性もある。

台湾武力統一は戦術上、奇襲的な着上陸侵攻が最も効率のよい作戦である。海上封鎖から段階的に作戦が強化されていくと悠長に構えていて、突然、弾道ミサイルの飛来と共に着上陸部隊が侵攻するという事態になれば、対応が間に合わない。

奇襲侵攻が起きた場合、日本はいつ存立危機事態や武力攻撃事態等を認定し、どのように対応するのか。予め準備し、政府、自衛隊、民間が共に訓練しておくことが中国に対する抑止力となるはずだ。(了)