公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

国基研ろんだん

2024.12.23 (月) 印刷する

韓国の内政混乱を憂える 荒木信子(朝鮮半島研究者)

12月3日の戒厳令宣布に始まる韓国の一連の混乱を見て、「なぜこのタイミングでこんなことが起きるのか」と残念に思う。韓国にとって国際的に懸案が山積みであるのに揉めている暇などないのだ。

揺らぐ「安保は米国、経済は中国」

最も大きな懸案はトランプ大統領の再登場により、米国の東アジアへの関与がどうなっていくかという点だ。

韓国は第2次世界大戦後、経済は日本と米国を、安全保障は米国を頼みとしてきた。この関係は、東西冷戦、特に朝鮮半島における韓国と北朝鮮の対立という環境の下で成り立ってきた。

変化が見え始めたのは1980年代で、韓国は共産圏諸国との関係改善を進め、戦後長らく反共の同志であった台湾に突然断交を突きつけ、中国と関係を正常化した。それによって韓国は、中国市場への進出と北朝鮮問題への中国の影響力行使を期待した。その後、経済は中国に依存するようになったが、東西冷戦は終わってもなお安保は米国を頼みとし続けていた。

この綱渡りのようなやり方は今後も果たして可能なのだろうか。トランプ次期大統領は中国への経済的締め付けを強化し、同盟・友好国にも同調を求める可能性が指摘されている。さらに在韓米軍の負担増を求めると見られている。韓国はこれをどう解決していくのだろうか。

党派抗争で国を失った歴史

私が今の韓国を憂えるのは、既視感を覚えるからだ。19世紀、日本、中国(清)、朝鮮が西洋列強と対峙せざるを得なくなったまさにその時、韓国(当時は朝鮮)はやはり揉めていた。日本も揉めたが間一髪で危機を逃れた。

当時、日本だけでなく清や朝鮮にも列強の艦船が現れるようになり、清は国土を侵食された。日本も韓国も国論が二分し国内が混乱した結果、開国することとなった。久しく東アジアの秩序の中で生きてきたのに、欧米中心の国際法の世界、弱肉強食の帝国主義の世界へ引きずり込まれたのである。

その大激動期に、朝鮮王朝は党派抗争(党争)に明け暮れていた。そればかりか日本、清、ロシアの角逐場になっていたのを、それぞれの勢力を引き込むことで解決しようとした。この状態は日本の安全保障にとって迷惑極まりなかった。結局、朝鮮半島で日本、清、ロシアの力がぶつかり合うことになり、日清、日露両戦争の結果、日韓併合となった。

自由陣営にとどまれ

現在の韓国の事態に対し日本はどうしたらよいか。韓国の安定は当然望むところであるが、これまで日韓の間で起きたことは心に留めておくべきである。例えば、韓国は日韓併合時代の歴史問題を利用して日本を誹謗する国際プロパガンダを広め、日韓併合条約無効の主張、日韓請求権協定の無視など、国際的な取り決めを尊重しない、といったことが挙げられる。

こうした経験と記憶は、できるだけ韓国に関わるなと告げているが、日本の安全保障に影響する場合は、そうもいかない。ここが日本の苦しむところなのである。

多くの人が危惧するように反日的な政権ができたらどうなるか。今後米国の影響力が弱まったとしたら東アジアの力関係はどう変化するか。万一、韓国が自由主義陣営から離れてしまうことになったら、日本とっては警戒すべき対象が増えることになる。

韓国の今日の繁栄はもちろん韓国人自身の努力の結果であるが、一方では米国と日本との関係によってもたらされたという側面がある。ウクライナや中東の戦争で世界のバランスが変化している中、一日も早く内政を正常化させ、今後も自由主義陣営の一員として自立していて欲しいのだが、どうなることだろうか。(了)