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2025.02.18 (火) 印刷する

おおむね成功だが課題も残した米印首脳会談 近藤正規(国際基督教大学上級准教授)

インドのモディ首相は2月13日、ホワイトハウスでトランプ米大統領と会談した。会談は45分間にわたって行われ、両首脳は「印米包括的グローバル戦略的パートナーシップ」の重要性を改めて確認し、二国間関係のさらなる強化に向けて緊密に取り組んでいくことを約束した。

トランプ大統領がインドの高い関税を批判したのを受けて、モディ首相は米国産の石油やガスなどのエネルギー品の輸入拡大、米国からの軍装備購入拡大、アーモンドやオートバイなどの米国製品に対する関税引き下げ、米国に不法滞在するインド人の本国送還などでトランプ大統領と合意した。

防衛・原子力・対テロ協力で一致

この中でも注目されている米国からの軍装備輸入計画には、戦闘機F-21やF-35の購入によるインド空軍の近代化、ジャベリン・ミサイルとストライカー歩兵戦闘車の新規開発と共同生産、哨戒機P-8Iポセイドン6機の追加購入による海上偵察と対潜水艦戦能力の強化が含まれる。また、戦略的防衛枠組みとして「米印COMPACT構想」を打ち出し、技術移転、共同生産、産業協力に焦点を当て、今後10年間の防衛協力の枠組みを確立することも合意された。

モディ首相は首脳会談で「2030年までに印米貿易を5000億ドルにする」という野心的計画を掲げている。インドの米国からの輸入を増やすカギはエネルギーと軍装備の輸入拡大にある。トランプ大統領の貿易不均衡是正の圧力によってインドの米国製兵器の購入を大きく増やすことができれば、インドの軍事面でのロシア依存を減らすことにもなる。

今回の首脳会談では、民生用原子力分野の協力推進も合意された。米国はインド向け原子力規制の撤廃によって大型原子炉や次世代原子炉「小型モジュール炉(SMR)」(300メガワット程度)をインドに導入し、インドは協力推進の障壁となってきた原発事故の賠償義務を緩和する。

インドにとってのもう一つの成果は、2008年11月26日のムンバイ同時多発テロの実行犯タハウル・ラナ容疑者のインドへの引き渡しが合意されたことであった。パキスタン出身でカナダ国籍のラナ容疑者は、パキスタンを拠点とするイスラム過激派組織ラシュカレ・タイバ支援に関与した罪で、米国で有罪判決を受けている。最近米連邦最高裁が引き渡し反対の訴えを却下したことでインド移送が可能となり、トランプ大統領が首脳会談に先立ち承認していた。

モディ首相の今回の訪米前には、トランプ大統領が同盟国のカナダやメキシコに25%の関税を課すとして揺さぶりをかけていただけに、インドでも警戒感が大きかった。しかし、昨年6月の訪米を契機に大きく改善した二国間関係が、米国の新政権発足でも継続することが確認された形となった。

トランプ大統領の就任前には、モディ首相に最も近いアダニ財閥のゴータム・アダニ氏に対する米国での起訴問題が「取引」の材料に使われるのではないかと懸念されていたが、首脳会談で取り上げられることがなく、この心配も杞憂に終わった。カシミール問題や市民権法などの人権問題や、シーク教徒の分離独立主義者殺害を狙ったインド情報機関の秘密工作といったセンシティブな問題も取り上げられなかった。

未解決の貿易不均衡

このように概ね成功と言える首脳会談であったが、今後の課題も残された。トランプ大統領が懸念している貿易不均衡問題は、今回の首脳会談で解決したわけではない。貿易不均衡の是正について詰めた議論がまだ行われておらず、具体的交渉が始まるのはこれからだ。首脳会談とほぼ同時にトランプ大統領が発表した鉄鋼とアルミニウムへの関税も影を落としており、すでに世界最大のアルミニウムメーカーであるヒンダルコなどインド企業にも影響が出始めている。エネルギーの輸入拡大にしても、ドル高によって米国産のエネルギーが割高になる可能性がある。

ウクライナ問題をめぐっても、仲介役を買って出ているモディ首相を無視するかのごとく、米印首脳会談の直後、トランプ大統領はプーチン・ロシア大統領との直接交渉による米国主導の停戦構想をほのめかしている。インドとロシアの貿易決済手段となるべきBRICS共通通貨の構想も、トランプ大統領の関税100%の脅しによって完全に立ち消えになった。

日米豪印4カ国の安全保障枠組みであるクアッドも、戦略的協力の進展は当面期待できそうにない。一つの理由は日本にある。インドは、クアッドの生みの親でモディ首相とも親しかった安倍晋三元首相と石破茂首相の冷ややかな関係や、岩屋毅外相の「媚中」外交を十分に把握している。当然米国も把握しているはずで、クアッドにおける軍事戦略面での議論は「ひとまず休止」というところではなかろうか。石破政権がクアッド協力進展の少なからぬブレーキとなっていることは間違いない。モディ首相はトランプ大統領を今年ニューデリーで行われるクアッド首脳会議に招待しており、首脳会議に向けた米国とインドの動向が注目される。

メーク・インディア・グレード・アゲイン

今回、モディ首相は「MIGA」(メーク・インディア・グレード・アゲイン)という言葉を作り出し、トランプ大統領の提唱する「MAGA」(メーク・アメリカ・グレード・アゲイン)とMIGAが合わされば、MEGA(巨大な)パートナーシップが生まれると共同記者会見で述べた。翻って考えてみると、自国を偉大な国にするという政治家の決意が日本ほど望まれる国はない。願わくは石破首相もMJGA(メーク・ジャパン・グレート・アゲイン)とでも謳って、MEGAパートナーシップ構築の流れに加わってほしいものである。(了)