今や海底ケーブルは、社会生活に欠かせないインターネットをはじめ国際通信の95%以上を担い、総延長140万キロ以上に達する必要不可欠な国際インフラに成長した。しかし、世界各地の海では、海底ケーブルが切断されるケースが相次ぎ、通信インフラの脆弱性に懸念が生じている。
そのような中、中国船舶科学研究センター(CSSRC)が海底ケーブル切断装置を開発したと香港紙サウス・チャイナ・モーニング・ポストが3月22日に報じた。この装置は、400気圧にもなる深さ4000メートルの海底で作業が可能で、中国の最先端深海潜水艇に搭載できる設計という。
野放し状態の損壊行為
台湾北東部沖では1月、中国の貨物船が海底ケーブルを損傷させる出来事が発生した。2月には、中国人が乗船したトーゴ船籍の貨物船が台湾南部の領海内で錨などを使い、海底ケーブルを損傷したと報じられた。北欧のバルト海では、昨年末に複数の場所で不審船により海底ケーブルが切断され、ロシアや中国の関与が疑われた。
意図的な海底ケーブル損壊を律する国際法は国連海洋法条約だが、万能とはいえない。領海内であれば沿岸国の管轄権が及ぶが、排他的経済水域を含む公海では及ばない。船籍国は自国船舶の損壊行為に対する処罰法の制定を求められるものの、そのような法律がなければ野放し状態となる。多くの国でそうした国内法は制定されていない。
国連は2023年11月の第79回総会の報告で、海洋法条約で規定された処罰法の制定を各国に促したが、ほとんど効果を上げていない。国際社会は海底ケーブルへの危害を防止するため、強制力のある新たな仕組み作りを模索する必要がある。
海底滞在施設の建設も開始
サウス・チャイナ・モーニング・ポストによると、中国の開発チームは、今回の切断装置は海洋資源開発に役立つと主張するが、どのように有用なのかの説明はない。逆に、西太平洋のグアムなど重要な戦略拠点付近でケーブルが切断されるなら、米軍や同盟国の軍事作戦に多大な影響を及ぼし、西太平洋における戦略上のリスクが増大するだろう。
同紙はまた、中国が南シナ海の深さ2000メートルの海底で6人が1か月間滞在できる宇宙ステーション型の海底施設の建設を開始したことも報じた。対照的に、日本の有人潜水艇「しんかい6500」は数年内に寿命を迎えるが、後継機の目途が立たない。さらに令和5年に閣議決定された海洋基本計画の中で、海底ケーブルへの言及は全92ページ中に1か所のみという有様だ。このまま手をこまねいていると、海洋資源開発の面でも海底ケーブルの面でも中国の後塵を拝すことになりかねない。
かつて海底は戦略上の真空地帯だったが、中国は宇宙、サイバーに続く新たな戦場と認識し、海底ケーブル切断による国際ネットワークへの干渉という平時から行うグレーゾーン作戦の最先端を走り始めている。わが国は米国など同盟・同志国と共に協力体制を整え、早急に対応する必要がある。(了)