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国基研ろんだん

2026.01.28 (水) 印刷する

慰安婦問題で続く嘘との戦い 西岡力(麗澤大学特任教授)

1月6日、李在明韓国大統領がX(旧ツイッター)に、韓国内外の慰安婦像の撤去を求める活動家、金柄憲・慰安婦法廃止国民行動代表を名指しして「こんな愚かな…。死者名誉毀損です」と非難する書き込みをした。すると、すぐ警察庁が特別チームを編成して金氏らへの捜査を強化し、金氏の家宅捜索を行った。

大統領の投稿で警察動く

金氏は『反日種族主義』執筆者の李宇衍氏らと、2019年12月からソウルの旧日本大使館前の慰安婦像付近で毎週水曜日に慰安婦像撤去を求める集会を続けている。また、韓国各地やドイツなど海外に建てられた慰安婦像を訪れて撤去を求める活動をしてきた。

李大統領は6日、韓国紙・中央日報の「『慰安婦は売春婦』…全国を回って『少女像冒瀆ぼうとくチャレンジ』を行った男」という同日付記事を貼り付けて金氏批判の書き込みをした。同記事は「慶尚南道梁山警察署は、韓国各地に設置された平和の少女像に『撤去』と書かれたマスクを被せたり、像を黒い布で覆い隠したりするなどの方式でデモを繰り広げてきた『慰安婦法廃止国民行動』の金代表ら4人に対し、昨年10月に告発状が提出され、立件して捜査中だと5日明らかにした」と書いていた。

すると、警察庁は翌7日、「慰安婦被害者対象不法行為厳正対応」という題名の報道資料を出し、ソウルの瑞草警察署を集中捜査官署として、梁山警察署などで捜査していたものをまとめて集中捜査すると発表した。韓国の新聞やテレビは一斉に警察発表をそのまま伝え、あたかも金氏が重大犯罪人であるかのような印象が広がった。

名誉毀損容疑で家宅捜索

19日午後、ソウル瑞草警察署が金氏の自宅を家宅捜索した。同警察署は同日、①名誉毀損②児童福祉法違反③未申告不法集会開催―の容疑でソウル中央地方裁判所から発行された押収捜索令状を執行した。令状で警察は、名誉毀損の被害者として李容洙氏(大邱)と朴筆根氏(慶尚北道浦項)、そして吉元玉氏(故人)を特定した。金氏がこの3人について「日本軍慰安婦」として強制連行された事実がないという内容が書かれた横断幕を使って集会を開催したという理由からだった。

児童福祉法違反については、「売春進路指導」と書かれた横断幕を学校近くで広げた行為が問題とされた。このスローガンの表現には、売春婦である慰安婦の像を校内に建てるのは売春婦になることを望ましい進路と教えることになる、という金氏らの主張が込められている。

未申告不法集会開催に関しては、金氏はじめ慰安婦法廃止国民行動の会員たちが昨年12月29日、ソウル城東区の舞鶴女子高等学校前とソウル瑞草区の瑞草高等学校前で「少女像を撤去せよ」という横断幕を持って記念写真を撮影した行為が「集会およびデモに関する法律」違反に該当するとされた。

警察は、金氏の自宅からデモ用プラカード139点、横断幕84点、ベスト8点、印刷物1部、日記1点、日本軍慰安婦証言集(韓国挺身隊問題対策協議会編)23冊、デスクトップコンピューター1台を押収。ほかに、車両に保管されていたデモ用プラカード15点と横断幕2点、携帯電話端末1点を押収した。

金氏は家宅捜索が進行する間、警察に積極的に協力した。自分が持っている慰安婦証言集と横断幕の内容と関連して、具体的にそれが何を意味するのか瑞草署員に説明までして「全部持って行け」と話したという。

大統領に謝罪要求

金氏は家宅捜索の翌20日、京畿道水原市勧善区にある慰安婦像の前で事前に許可を得ていた集会を開き「大統領の公開謝罪を求めます」という声明を発表して、自分は違法行為を犯してはいない、慰安婦を巡る嘘との戦いをこれからも続ける、と堂々と主張した。(声明全文日本語訳はコチラ

声明で金氏は、大統領のXへの書き込みを契機とする警察の集中捜査と家宅捜索、マスコミの拡大再生産報道で「憲法で保障された無罪推定の原則はどこかに消え、…私はあっという間に各種の罪を犯した犯罪者に転落しました」と人権侵害を告発した。また、家族がおびえていると書いた。

その上で「しかし、私は大統領と警察庁の脅迫に屈するつもりはまったくありません。むしろ、力のない一市民の真実追求活動を最高の地位と権力で脅かし、家族を恐怖のるつぼに追い込んだ大統領に謝罪を要求するところです。 私は決して大統領が言った死者名誉毀損をしたことがなく、警察庁報道資料に言及されたいかなる罪も犯したことがないからです。 また、慰安婦に関する真実を知らせただけで、慰安婦を冒瀆しませんでした。私がしたことといえば、36年間続いている慰安婦詐欺劇の中断と慰安婦詐欺劇の象徴である少女像を撤去せよということだけです。」と主張した。

そして声明の最後で次の二つを李大統領に要求した。

「第一に、性平等家族省(旧女性家族省)に登録された240人のいわゆる日本軍慰安婦被害者の内、日本軍に『就職詐欺、誘引・誘拐拉致、人身売買』等の方式で連れて行かれた慰安婦がいるのか確認されるようお願いします。 もし1人もいなければ、慰安婦被害者法は適用対象者がいない失効法律であることを認め、全面的な再調査が行われるようにしてください」

「第二に、大統領が死者名誉毀損とおっしゃったので、私がこれまで死亡した慰安婦の中で誰の名誉をどのように傷つけたということなのか具体的に明らかにしてください。対象者を特定できなければ、大統領は何の根拠もなく罪のない一介の一市民を『愚かな人』として公開非難し、私と私の家族全員を捜査と処罰という恐怖に震え上がらせたのです。この点についての公開謝罪を求めます」

歴史の真実を明かす

すでに昨年2月、韓国の最高裁判所は、慰安婦は売春婦の一種と大学講義で発言して名誉毀損罪で刑事裁判にかけられた柳錫春・前延世大学教授に無罪判決を下している。金氏は、その裁判で検察が日本軍に強制連行された慰安婦を一人も特定できなかったことを踏まえて、今回の警察の捜査によって歴史の真実を再度法廷で明らかに出来ることになったとし、「これから本格的に戦う」と語っている。韓国での慰安婦を巡る嘘との戦いはまだ続いている。(了)