高市早苗内閣になってからインテリジェンス組織に関する議論が活発化している。そうした中、20日(火)の産経新聞「正論」欄で、元内閣衛星情報センター次長の茂田忠良氏が、防衛省情報本部から電波部を分離して同省内に国家シギント(電波情報)機関を創設すべきだと主張した。また先月、国基研にゲストスピーカーとして招かれた前公安調査庁第二部長の平石積明氏は新しい国家情報局について、ヒューミント(人的情報)を中心に活動してきた公安調査庁が中核となるべきだと主張した。さらに、元外務官僚の岡崎久彦氏はかつて、少数の地域専門家を集めて予算をかけずに対外情報機関を作るべきと主張していた。
平成13年から17年まで防衛庁情報本部長を務めた者として、我が国のあるべきインテリジェンス組織について所見を述べたい。
軍事情報の第一顧客は兵士
英国の有名なインテリジェンス組織である通称MI5とMI6のMIとはミリタリー・インテリジェンスの頭文字であり、インテリジェンスの起源は軍事情報だ。歴史的に見ても、シギントが最初に活用されたのは、第1次世界大戦におけるドイツ領タンネンベルクの戦いにおいてであり、ドイツ軍が約2倍の兵力であったロシア軍の交信電波を傍受してロシア軍を壊滅させた。
各国とも国防組織の情報機関には3通りの顧客がいる。第一が第一線で戦闘に従事する部隊、第二に政策決定者、第三に将来の武器システムを開発する部門の従事者である。即ち、戦う兵士が顧客の第一なのだ。
筆者の情報本部長としての経験からも、2003(平成15)年から始まったイラクへの自衛隊派遣が一人の怪我人もなく任務を完遂できたのは、情報本部から毎日もたらされたインテリジェンスの効用が大きかったと確信している。派遣された部隊指揮官も「情報本部から毎日もたらされる情報によって対策を講じ、隊員を訓練していると、予測した通りの事象が起きて適切な対応を取れた」と述懐している。
インテリジェンス源は融合して初めて有効
シギントを扱っている電波部を情報本部から分離することには反対だ。
テレビを鑑賞するのに、画像のみ、あるいは音声のみで楽しむ人はまずいないであろう。耳で聞くシギントと目で見る画像情報を融合させ、さらに分析を加えて、初めて確度の高い情報となる。情報本部には電波部以外に画像地理部、分析部が存在する。そのうちの電波部を切り離して別組織を構築するメリットを筆者は感じない。
2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻の際、当時のバイデン米大統領が「数日後」と正確に言い当てた情報源は、シギントと画像地理情報の融合であるテキント(技術情報=Technical Intelligence)だったと推測する。したがって、ヒューミント組織が主導するインテリジェンス組織や、オシント(公開情報)を分析する地域専門家中心の対外情報組織には限界がある。現に、ロシアのウクライナ侵攻を正確に予測したロシア研究者は、我が国にほとんど居なかった。
最後に、メディアの多くは、現在の内閣調査室、防衛省の情報本部、警察の公安部門、公安調査庁、外務省の国際情報統括官室がバラバラに首相に情報を上げている、とその欠陥を指摘しているが、そんなことはない。筆者は首相への報告を40回行ったが、一度の例外もなく内閣調査室長が同席した。新インテリジェンス組織も、内閣調査室を国家情報局に格上げし、現在の体制を大きく変化させることなく発展・強化させるべきだと思う。(了)





