公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2026.02.02 (月) 印刷する

米国に不可欠な日本の軍事的価値 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

1月30日、英国のキア・スターマー首相が中国を訪問して習近平国家主席と会談した。それに先立つ同月中旬、カナダのマーク・カーニー首相も訪中、続いてダボス会議では名指しこそしなかったものの、トランプ米政権の独善的行動を厳しく批判した。米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5カ国による電波情報共有の枠組み、ファイブ・アイズの重要メンバーが米国との関係を冷却化している現状に対し、米国の軍関係者およびインテリジェンス関係者から懸念の声が出ている。この懸念から、米国にとっての日本の価値に改めて気付かされる。

前方展開基地の重要性

米英関係の冷却化に伴う米軍関係者の最大の懸念は、インド洋に浮かぶ英領ディエゴガルシア島の米軍基地を使えなくなることである。この基地は米戦略爆撃機のみならず米原子力潜水艦も使用しており、米軍が中東に軍事介入する際には極めて重要な基地となる。

同様に、台湾を含めて東アジアで紛争が起きた場合、日本の米海軍横須賀基地や佐世保基地、沖縄の海兵隊や米空軍嘉手納基地なしで米軍が展開することはほぼ不可能である。左翼の人達は米軍基地に反対しているが、日米同盟を機能させ、米軍に東アジアの紛争へ介入して貰うのに不可欠な軍事基地を日本は提供している訳で、米国を東アジアに関与させるために在日米軍基地の果たす役割は大きい。

トランプ版モンロー主義すなわちドンロー主義の下でも、米国は西半球に閉じこもらない。現に今、イランに軍事介入する姿勢を示しているではないか。

電波傍受に複数の拠点が必要

米国のインテリジェンス関係者は、とりわけファイブ・アイズの協力関係が崩れることを懸念している。5カ国の関係が極めて重要な効果を発揮するのは電波傍受協力である。対象国の艦船や航空機が電波を出した場合、それを傍受する機器が分かるのは方位だけで、距離は分からない。したがって、艦船や航空機の位置は、複数の電波傍受サイトが捉える方位線の交差点(Fix)で特定する。

仮に昨年6月のように中国海軍の空母群が南鳥島付近にまで進出してきた場合、米アラスカ州のエレメンドルフ空軍基地にある電波傍受施設が捉える方位線と、オーストラリアのパインギャップにある電波傍受施設が捉える方位線は、ほぼ平行線となってしまうので、そこに三沢の電波傍受施設がキャッチする方位線がないと明確なFixが取れない。

南シナ海や東シナ海で活動する中国艦艇についても同様で、パインギャップと三沢があって初めてFixが取れるのである。偵察衛星があるではないか、と言う人は、シャッターを切るたびに高額の費用がかかることを知らない。

すなわち日本における米軍の前方展開基地と電波傍受施設は、東アジアにおいて米軍が関与するためには不可欠であり、この点がトランプ大統領に対して日本の安全保障上の貢献を説得するのに極めて重要なファクターとなるのである。(了)