兼原信克・前内閣官房副長官補は、11月15日、国家基本問題研究所の企画委員会に招かれ来所した。氏は、内閣官房で対中外交をはじめとする政策実行の最前線に立っていたが、この秋退官したのを機に、隣国である中国に対する氏の認識などについて、櫻井理事長をはじめ企画委員らと意見を交換した。
まず、中国経済は、たとえるなら、「ジャックと豆の木」だという。つまり、昨日はまだ小さな萌芽であったものが、いつの間にか、天にも届く勢いで成長する。だがそれも、2050年あたりがピークになりそうだ。それを人口構成比の変化が如実に示す。超高齢化社会の到来で、社会保障費が大きく膨らむ。国内市場を支えるのは人口だが、総人口で数年後にはインドに追い抜かれる。自らの手で成長した幹を切り倒すことになるかもしれない。
歴史的に見ると清国が列強により引き裂かれた後、軍閥の跋扈することになるが、そこに共産主義が活躍の場を得る。大戦後、日本軍が撤退した混沌の世を統べる手法が、毛沢東の共産主義による一党独裁や統制経済だったが、その進展は遅々として進まなかった。
鄧小平の時代になり、改革開放へと舵を切り、国力を蓄えようとしたが1989年に天安門事件が発生し、西側からの援助を切られ、それも失速。そこへ、日本が、手を差し伸べる。天皇陛下の御訪中である。これを契機に、中国は対外的な失地回復を図った。
同時に国内統制の強化をナショナリズム喚起により行う。その一端が反日教育の徹底だろう。この時期に教育された世代が政治をはじめ各界の指導層である間は、反日傾向は続くのではないか。
さらに現在は、政府がIT技術やスマホを道具に使い人民を統制する時代だ。スマホ決済化が進み、一括データ管理という利便性は捨てがたい。政府により監視されていても、悪口を言わなければ楽に暮らせる。わが国は、13億人の監視、統制が容易に可能な国が隣国にあることを、常に意識下におき付き合う必要があろう。
最後に、我が国を取り巻く安全保障環境について、尖閣や台湾を例に語るとともに、これからの新たな軍事技術の重要性を指摘した。つまり、宇宙、サイバー、電磁波などの新領域への注力が世界的趨勢だ。しかし我が国では、安保分野と科学分野が協力しない傾向が強く、それぞれが別の方向を向いている。まったく、無駄としか言えないと断じた。
【略歴】
1959年、山口県阿武町出身。1981年東京大学法学部卒業、外務省入省、フランス国立行政学院でフランス語研修、2012年、国際法局長などを歴任、同年、内閣官房副長官補、2014年から国家安全保障局次長を兼務し、本年10月退任。昨年、フランス政府よりレジオンドヌール勲章シュバリエに叙される。(文責 国基研)