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2023.03.24 (金) 印刷する

「習近平体制3期目 行き詰まる中国経済と米vs中露の行方」 田村秀男・産経新聞特別記者

国基研企画委員の田村秀男・産経新聞特別記者は3月24日、国家基本問題研究所企画委員会で、3期目に入った習近平体制における中国経済の行方などを語り、その後櫻井理事長をはじめ他の企画委員らと意見交換した。

【概要】

中国は3期目の習近平体制がスタートしたところだが、経済的には苦境下にある。一方、米国では銀行危機が発生し、今後中国経済にも悪影響を及ぼすものと思われる。今後の中国経済を、不動産投資の実態、あるいは大国間の関係などから、3つの注目点について解説する。

〇習近平体制3期目
中国経済の要は通貨で、実は米金融にコバンザメのように張り付いているのが実態である。実際、米ドルと人民元発行高の相関係数0.92という数字がそれを示す。天安門事件以来、人民元の安定を求めた中国は、米ドルとの連携を強化した。その結果、ドル頼みの中国金融となり、逆にドル離れが難しい状況となってしまった。

米国はリーマン後に量的金融緩和を5年間に4兆ドル規模で行い、コロナパンデミックで、さらに緩和を促進、2年で5兆ドルを発行した。その結果、金融市場はドル資金の洪水となった。昨年頭から金融引き締めに転換したが、ここにきて米国の銀行危機が発生しFRBが利上げに転じた。すると米ドルに連動する人民元にも影響することは間違いない。

中国全人代の人事で人民銀行総裁の易綱氏が留任し、中国経済システムにおいても習近平氏の直轄体制が完成した。この強権体制で金融リスク抑制が成功するか、第1の注目点である。

〇行き詰まる中国経済
昨年中国の不動産投資は前年比マイナス投資となった。中国経済の約3割を占める不動産がマイナスになった影響は大きい。不動産こそが経済成長のエンジンだったからである。数年前、不動産価格が前年比20%下落したことがある。西側であればバブルが弾けたような状態でも、中国では共産党がカネと土地を押さえているので、信用不安を起こすことなく、抑え込まれてきた。

しかし、コロナパンデミックで不動産投資が続落したことから、たとえ資金を増発しても供給過剰の不動産市況は回復せず、人民元の信用が損なわれるのである。

中国の財政収入も土地関連が約3割を占める。土地は共産党のものだから、地方政府が利用権(期限付き)を販売して収入を得てきた。ところが、この不動産不況により、大きなダメージが政府の財政を直撃している。このような状態を立て直すことができるのか、第2の注目点である。
 
〇米vs中露
やはり中国は、米ドルに依存する通貨金融システムから脱却したい。そのためには、人民元を国際決済通貨にすることが必要だと考える。

米国は「ペトロダラー」と言われるように、中東との石油取引を米ドルで行うようにした。その結果ドル通貨は石油の裏付けという価値が付き、基軸通貨としての信頼性が向上した。

ここにきて中国外交の事実上トップ王毅氏がサウジアラビアを訪問し、次に北京にサウジアラビアとイランの外相を招待し和解を演出した。その狙いは「ペトロ人民元」体制確立の試みとも見ることができる。

中国はドルによる支配から解放される方策を模索している。そのためには反米ドル同盟を作ることが必要で、だからエネルギー大国の中東とロシアに食指を伸ばしたのであろう。

他方、ロシアの輸出代金決済に占める通貨で人民元の比率が急拡大しており、ロシア経済にとっても中国の影響力が大きくなっていることは間違いない。

習近平政権が経済不安を抱えながら行う外交の先には、エネルギー資源大国との連携による反米ドル同盟の構築が見え隠れする。今後の展開が、第3の注目点である。
(文責 国基研)