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2023.06.28 (水) 印刷する

「海洋環境における中国海軍戦略」 トシ・ヨシハラ・米国戦略予算評価センター(CSBA)上席研究員

米国の戦略予算評価センターのトシ・ヨシハラ上席研究員は、6月28日(水)、国家基本問題研究所に来所し、中国の海洋戦略について説明し、櫻井理事長をはじめ企画委員らと意見交換をした。

ヨシハラ教授は、著書『中国海軍VS.海上自衛隊』(ビジネス社、2020年)で2021年の第8回日本研究賞を受賞したが、一昨年の授賞式はコロナ禍のため来日できなかった。この度の来日の機会にようやく対面を果たすことができ、お互いリアルでの対話を喜びあった。本日の講話の概要は以下の通り。

【概要】
まず中国を囲む海洋地勢を中国サイドの視点から概観する。第1列島線はアラスカから始まり、クリル諸島、日本列島、南西諸島、台湾、フィリピンへと連なるラインが中国の行く手を阻むように取り囲む。次は第2列島線で、小笠原諸島からグアム、インドネシアに連なるラインで、さらに第3列島線はハワイ諸島周辺となる。

このように第1列島線は特に中国の安全保障環境にとって緊要な位置にあることが分かる。ここには中国の生命線を縛るチョークポイントがいくつも存在しているからである。例えばバシー海峡、宮古海峡、対馬海峡、津軽海峡、宗谷海峡などが、中国の海上輸送路に当たっており、これらのチョークポイントをまず確保することが必要になる。

次に海洋で展開される戦略は積極防御(Active Defense)戦略に基づくといわれる。強大な海軍力を持つことにより、平時には敵を域内に近寄らせず抑止し、戦時には瞬時に破壊するのが、積極防御戦略である。攻撃は最大の防御になるという積極防御のコンセプトによれば、防勢的と自称する人民解放軍の実態は、極めて攻勢的になるわけだ。

中国海軍はミサイル時代の戦争において長距離打撃力が欠かせないと見る。ボクシングの例でいえば、より遠くからパンチを繰り出す、つまり相手の射程外(アウトレンジ)から攻撃する方が有利に展開できるからだ。したがって中国艦艇は長射程のミサイルを装備するのである。予想される海戦では先手必勝、速戦即決、遠距離攻撃が主体になるだろう。また艦艇同志の海戦では100発以上のミサイルが飛び交い、10分以内に決すると考えられている。

そして後方支援のためのサプライチェインも戦争の帰趨を決する重要な要素になると見る。中国はウクライナでの弾薬消費を含めた戦況を注意深く観察してきた。その結果、現代戦においては長射程、精密攻撃兵器の消耗が激しくなることが分かった。米国や西側がどこまで弾薬などの供給を継続できるのか。勝敗を決するポイントはそこにあると見る。

最後に日本は、第1列島線上にある西側の砦であり、大きな軍事力を持つことから中国の重要な攻撃対象ということを自覚し、中国の世界的な野望を阻止するため、日米が緊密に連携して対抗していくことが必要だという。

【略歴】
1972年、九州生まれ、台湾育ち、2009年に米国籍を取得した日系3世。米国の中国海洋戦略研究者。ジョンズホプキンス大学高等国際関係大学院で修士号を、タフツ大学フレッチャー法律外交大学院で博士号を取得。米海軍大学など多数の有名校の教壇に立ち、現在はジョージタウン大学外交大学院でインド太平洋の海軍力について教鞭をとるなど、現職の他に幅広く活躍する。(文責:国基研)