産経新聞台北支局長の矢板明夫氏は、1月19日(金)、国基研企画委員会に台湾からオンラインで参加し、先日行われた台湾総統選挙について語り、櫻井よしこ理事長を始め参加した企画委員らと意見交換をした。その概要は以下のとおり。
【概要】
1月13日、台湾で総統選挙が行われた。選挙の結果は蔡英文政権で副総統を務める頼清徳氏が勝利したが、与党民進党の完全勝利というにはほど遠い。
得票率でいうと頼清徳氏は40%、国民党の候友宜氏は33%、民衆党の柯文哲氏が26%という結果で、仮に野党統一候補であったなら、民進党の勝利はなかっただろう。
まず、前回の蔡英文総統が57%を獲得したのに比べ、薄氷の勝利ともいえる。その要因の一つは、若者世代の票が民衆党に流れたことにある。そもそも民進党や国民党の支持層は中高年齢層が中心である上に、若者世代や無党派層の多くが民衆党を支持した。各政党の支持者集会の様子からも明らかなように、世代間の違いが当初から露呈していた。
次に、今回の選挙では総統選だけでなく立法院選挙も行われた。その結果、民進党は過半数を取れず、頼清徳新総統の議会運営は相当苦労することになる。やはり柯文哲氏の民衆党がどちらにつくかで議会運営が左右される、いわゆるキャスティングボードを握ることになる。
与党民進党が伸びなかった他の要因には、これまでの蔡英文総統の政権運営に若年層から批判が多かったこともある。8年に渡って民進党が過半数の議会で、兵役延長を決めたことなどは若者に悪いイメージを植え付けたと言われている。また多数派による強硬な議会運営をしたというマイナスの印象も与えた可能性はある。
台湾の見た目の経済は安定成長のようだが、半導体などの高成長企業はともかく、実質平均賃金は日本よりも低く、特に若年層は恩恵を受けていないという不満を持つ。それが与党民進党への不信感につながっている。
さらに、民衆党に若者の票が流れた要因にはTikTokの効用がある。若年層500万人が利用するTikTokだが、民衆党の柯文哲氏は上手に使いこなし、そのフォロワー数は100万人を超えると言われる。それに対して民進党や国民党はTikTokを使わないので、柯文哲サイドが一方的に情報を発信し、それを若者が鵜呑みにする。結果として、若者の知る政治家は柯文哲しかいないという構図が出来上がるのである。
前途多難な頼清徳政権が直面する課題に対して、米国のみならず日本は台湾支援を本格化させることで、後押ししていく必要があるのではないか。
(文責国基研)