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2024.03.27 (水) 印刷する

「我が国出入国在留管理制度の現状と課題」 君塚宏・出入国在留管理庁出入国管理部長

出入国在留管理庁の君塚宏・出入国管理部長は、3月22日(金)、国基研企画委員会にて、「我が国出入国在留管理制度の現状と課題」について語り、櫻井よしこ理事長をはじめ参加した企画委員らと意見交換をした。

その概要は以下のとおり。

【概要】
出入国管理行政を36年間一貫して駆け巡ってきた経験から3つの観点でお話ししたい。第1は入管行政の根本たるもの(マクリーン判決)、第2は昨年の入管法改正の主眼となった難民受け入れと送還忌避問題、第3は今年の入管法改正案の主題となっている技能実習から育成就労への変革を始めとした外国人材の受け入れについて。

〇入管行政の根本…マクリーン判決
第1のマクリーン判決は今日に至る入管行政の基本中の基本を表象しているとも言える。ある米国人語学教師が反戦運動(べ平連)に参加したことがきっかけとなって、法務大臣がこれまでの在留状況を勘案して更新不許可にしたことに対して、処分取り消しの行政訴訟が提起された事件。昭和53年、最高裁判所大法廷は裁判官全員一致の意見で「憲法上、外国人はわが国に入国する自由を保障されている者ではないことは勿論、在留の権利ないし引き続き在留することを要求し得る権利を保障しているものでもない」「外国人に対する憲法の基本的人権の保障は外国人在留制度の枠内で与えられているに過ぎない」としたが、この外国人在留制度がまさしく「在留資格」と「退去強制」を中軸とした出入国及び在留の公正な管理(入管法第1条)によって成り立っていることは言を俟たない。

日本の外国人受け入れ制度には、「経済・文化」「家族・社会」「人権・人道」「外交・歴史」といった各要素の調和ないしチューニングによって多面的な国益増進のために受け入れるというプラス面の機能(在留資格の付与)と、「治安・社会秩序」「社会保障・公租公課」「重大感染症蔓延防止」「出入国管理秩序」といったふるいにより入国・在留を規制し状況次第で国外に退去させるマイナス面の機能(上陸拒否・退去強制)があり、いわば「我が国社会の持続的成長」を促しつつ「日常生活面での安全安心」を維持するという、プラス・マイナスの両者が相俟って成立している。在留資格は現在29種類が入管法において定められているが、“Do”(稼働する、勉学する、観光する等)で表される「活動」に着目したものと“Be”(日本人の配偶者・子孫等)で表される「身分・地位」に着目したものがあり、この在留資格によって日本での外国人受け入れ政策が国内外において明確となり、かつ、個々の外国人にとっては日本にとどまって生活できる前提条件ということになる。外国人材ないしはいわゆる移民の受け入れに関しては積極・消極の立場で様々な意見が寄せられているほか、個々の外国人に焦点を当てて本国の社会・経済事情に鑑み日本での生活を認めてほしい、刑事罰を受けたことによる強制退去はとどまってほしい…といった主として人権・人道面での配慮を要請されることがあるが、まずもってこれらの在留資格、退去強制という両制度の在り方につき国民各層で活発に議論いただくことが肝要。なお、昨春の国会審議において求められた資料によれば、永住許可に至る者の直前の在留資格は身分関係の理由が多数を占めていることが分かる。

我が国での出稼ぎや定住を目論みつつ上述したようにDoの在留資格もBeの在留資格も要件や基準を満たさないことが当初から分かっている者は、査証が免除されたり発給手続が大幅に緩和されている観光目的の短期滞在で入国してそのまま不法残留し、あるいは旅券や立証資料を偽造したり偽装結婚などの目的偽装の手段を駆使するほか、最近では(一部の国の出身者に特に顕著であるが)査証免除による短期滞在で入国を果たした後に難民認定申請を行い、その手続中であることを理由に就労が可能な在留資格に切り替えて、難民認定手続が長期に及ぶことを前提にフルタイムで稼働する者もいる。

〇難民受け入れと送還忌避問題
第2の難民受け入れと送還忌避問題に関しては、現行入管法に孕んでいる喫緊の課題とされた。難民条約上の難民に必ずしも該当しないウクライナなどからの紛争避難民を受け入れる枠組みを整備する必要があった一方で、難民認定制度の誤用・濫用という問題が依然として横たわっている。この誤用・濫用は、上述したように短期滞在を含む正規在留者が難民認定申請をすれば当該手続が終局するまで合法的に稼働できる在留資格が得られるというだけではなく、不法滞在者が難民認定申請をすれば「送還停止効」が生じることとなる。すなわち、日本から退去すべきことになった外国人の大半は自発的に国外に退去するが、中には様々な事情を申し立てて退去を拒もうとする外国人(送還忌避者)が少なからず存在し、たとえ犯罪前科があっても難民認定手続中であれば強制力による送還が一律に停止されることとなり、その申請回数には制限がない。また、退去を命じても送還中に航空機内で暴れたり大声を出すなどの妨害行為を行い、航空機の機長から搭乗を拒否されるケースもあった。我が国は四方を海で囲まれているという地理的条件から、基本的に航空機で行き来する形態が大半であるがゆえ、国境を越える人の流れの管理は欧米諸国と比して容易であるが、その反面、国外退去を文字通り強制する場合に民間航空機を利用するしかなく、上述のとおり物理的な抵抗に遭うと対応に難渋することになる。

このような問題を解消するため、令和5年の入管法改正では、難民認定申請を何度も繰り返す事案に対処するため、3回目以降の申請には「相当な理由」がある旨の資料の提示を求めることとし、送還停止効に一定の歯止めをかけることとした。その他、退去を拒む自国民の引き取りに応じない国を送還先とする者や過去に実際に航空機内で送還妨害行為に及んだ者を対象に退去を命令し、これに従わなかった場合には刑事罰を科されうることとして、自発的な出国を促すこととした。

さらに、退去強制令書の発付により国外退去が決まったにもかかわらず送還に至らず収容施設への収容が長期化するケースも散見され、その間に様々な処遇上の問題(心身の健康維持や医療対応など)が生じている。その場合仮放免を検討するのだが、そのまま逃亡してしまう事案も発生しているほか、身元保証人が相当数の仮放免者を引き受けていながらその役割を適切に果たしていない事案も見受けられている。改正入管法では、監理措置制度を新設して、適切な監理者のもと、逃亡を防止しつつ収容を回避し送還が可能となるまで訴訟、難民認定手続きその他日常生活が送れるように対処することになる。

〇外国人材の受け入れ
第3の新たな外国人材の受け入れだが、これは昭和56年の技術研修生が元祖となって平成5年に実質的に開始された技能実習制度を発展的に解消し、新たに設けられる育成就労制度の下で文字通り就労させながら育成する外国人材を受け入れようとするもの。もともと技術研修生は日本の企業が海外進出する際に現地工場などで責任者になれる人材をあらかじめ育成して本国に返すというものであり、その後の技能実習制度においても我が国で培った経験を本国に持ち帰って経済発展に活かしてもらうという国際協力を主眼としていた。しかしながら、こうした制度の目的と実態の乖離が顕在化して現場において受け入れ側と技能実習生との間でトラブルが生じ、中には無断で転職していく者(失踪者)も跡を絶たない。そこで、このような問題を解消し労働者としての権利の保護を強化するにとどまらず、昨今における我が国の少子高齢化の進行及び労働力不足の現状に鑑み、令和元年に新設された特定技能制度に直結する形で技術、知識、技能を適正な計画の下で習得してもらい能力向上次第で中長期にわたって日本で活躍してもらうとともに、日本が選ばれるようスキルアップとキャリア形成の仕組みを整える方向に制度を設計し直したものである。

他方で、このような外国人材の受け入れを移民政策ではないかとする指摘もあるが、能力を問わず労働人口を増やす目的で「一方通行」で諸外国から移住希望者を受け入れているのではなく、入口段階ではあくまで留学生や期限付き育成途上の外国人材として受け入れ、その後における日本語能力の向上や稼働能力のスキルアップの状況とともに、素行や地域社会への定着の度合いを慎重に見ながら在留の継続を認めていくという、いわば「ステップ・バイ・ステップ」の方策がとられており、また、難民と称する人々についてもその置かれた状況に応じて様子見的な在留を認めることもあり、いずれにあっても当初からあまねく永住や定住を前提とするような仕組みにはなっていない。

今回の入管法改正案では、素行善良、生計維持能力、国益適合などの諸要件をクリアして永住許可を受けている者が、その後になって故意に公租公課の義務を果たさない、すなわち納税や社会保険料の納付がもとよりできるにもかかわらず敢えてそれに応じようとしない場合、あるいは退去強制事由には至らないものの一定の罪を犯して刑事罰を受けたような場合には、永住許可が取り消されて従前の在留資格に戻るなどの仕組みを設けることとしているが、これは地域における共生社会を目指していく上で、権利・義務を分かち合うためにも基本的なルールは守っていただきたいという趣旨によるものである。
このほか、デジタル社会の進展を睨み、入国前の事前スクリーニングを強化し、米国、カナダ、英国、豪州、韓国などで既に取り入れられている「電子渡航認証システム」を参考に、日本に向かうよりも前に滞在目的、滞在先、日本滞在中の関係者(旅行会社、親族・友人、取引先、企業・事業所、学校)などをあらかじめネット上で申告してもらい、当方で蓄積している情報を元にテロ・犯罪、不法滞在・不法就労等のおそれなど好ましからざる外国人の入国を未然に防止し、大多数の歓迎すべき外国人の入国手続をスムーズに行うという、円滑化と厳格化の高次元での両立を図るための仕組みの検討を進めている。

【略歴】
昭和39(1964)年、東京都出身。昭和63年明治大学政治経済学部政治学科卒、同年法務省採用。在タイ日本国大使館一等書記官、東京入国管理局警備監理官・次長、法務省入国管理局難民認定室長、同審判課長、同警備課長、福岡入国管理局長、大阪出入国在留管理局長、出入国在留管理庁在留管理支援部長を経て、昨年から同庁出入国管理部長(現職)。

※講演内容には、講師個人の職務経験に基づいた見解が含まれており、全体として公的な法解釈、 政策指針、 行政運用の在り方等を述べたものでないことをお断りします。
(文責国基研)