5月24日、国基研企画委員である西岡力・モラロジー道徳教育財団教授は、いま大変化が起きている北朝鮮の現状について語り、櫻井理事長をはじめ企画委員らと意見交換した。
【概要】
●韓国併呑路線の放棄と先代の完全否定
北朝鮮世襲独裁制は、これまで韓国併呑路線を踏襲してきたが、ここにきて大変化が起きている。
昨年12月30日の労働党中央委員会総会および本年1月15日最高人民会議の演説において、「韓国は統一されるべき同じ民族ではなく、戦争で平定すべき敵国」とされた。
その演説の中で「統一」「和解」「同族」という概念は悉く否定された。これは金日成が提唱した「自主」「平和統一」「民族大団結」という3大原則を否定することに当たる。
加えて、演説の中で「首都平壌の南の関門に無様に立っている『祖国統一3大憲章記念塔』を撤去する」とまでも言い、さらに金日成の生誕日を「太陽節」と呼ぶことを中止した。
金日成が朝鮮戦争休戦後に立てた韓国併呑戦略は、米本土まで届く核ミサイルを持つことで米国を脅し参戦を防ぎ、韓国内に作った従北勢力を戦争勃発と同時に武装蜂起させるというもの。この戦略は金正日政権を経て金正恩政権でも踏襲されてきた。
ところが、現実は韓国の目覚ましい経済発展と国防力強化で、米軍の参戦がなくても奇襲南進は成功しない状況になり、加えて北朝鮮住民は自由な韓国の実情を知り、韓国による統一に憧れる北朝鮮住民が増え始めた。その現実に金正恩がようやく気づき、韓国併呑戦略を放棄し、金日成の統一政策を否定し、韓国を敵国と決めつけたのである。
歴史の改竄もはじまった。労働新聞と朝鮮中央通信のサイトで過去の記事の大部分が削除された。「統一、和解、同族という概念を完全に除去」するには関連記事が膨大になり、過去記事すべてが削除されたと思われる。
●核戦略の大転換と政治工作の放棄
北朝鮮の核戦略は金日成が確立した。米本土に届く戦略核を持てば、米国を抑止できる。核開発は継続されて、昨年2月には大陸間弾道ミサイル「火星15」の発射訓練が行われ、実戦配備されたことが確認された。ところが、2022年2月のロシアが始めたウクライナ侵略戦争の結果を見て、奇襲南進が成功しないことを悟ったのである。
そこで、通常戦力では国防力を強化した韓国に勝てないので、実際に戦場で使える戦術核兵器開発に集中することに方針を変えた。実際、戦術核攻撃訓練を繰り返しているのはそのためである。日本のメディアは、わが国が戦術核の標的にされても何も反応しないが、もっと注意を向けるべきである。
大きな変化の中には対南政治工作の放棄もあげられる。80年代から北朝鮮は意図的に左傾民族主義に基づく反日反韓史観を韓国に植え付ける対南政治工作をしてきた。親日勢力が米国と結託して民族の分断を煽ったという宣伝工作を行い、力のある親日勢力を排除して韓国内を弱体化し、北朝鮮による統一を目指すというもの。
ここにきて、金正恩による韓国併呑戦略が否定され、対南政治工作が放棄されたことから、韓国内の従北派あるいは主体思想派は拠り所を失うことになった。これで韓国内の反日反韓史観が逆転する現象が起きるかもしれない。
引き続き北朝鮮でいま起きている大きな変化に注目していきたい。
(文責 国基研)