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2025.04.22 (火) 印刷する

『フランス保守の系譜』 ポール・ド・ラクビビエ氏

哲学研究家のポール・ド・ラクビビエ氏は、4月18日、国家基本問題研究所の定例企画委員会でゲストスピーカーとして来所し、「フランス保守の系譜」について講演し、その後企画委員らと意見を交換した。
講演の概要を以下に紹介する。

【概要】
多くの日本人が抱くフランス革命のイメージは、1789年から1799年にかけブルボン絶対王政を打倒して共和政を樹立した、或いは市民の権利を定めた人権宣言を生み、自由や平等を普及させ近代社会の礎を築いた、など決して悪くない印象だと思う。

しかし市井のフランス人は、フランスの伝統を破壊した元凶と捉えている。つまり、革命がフランスを殺したと認識しているということ。その革命に反旗を翻すことが反革命であり、その闘いは現在まで継続し、それは伝統的フランスに回帰する立場を指し、これを保守という。現在も王党派という保守が、王政復古を求め運動を展開していることをここに紹介したい。

・フランスで真の保守は王党派
王党派には3つの保守の流れがある。一つはレジティミスト(正統王党派)だが、ナポレオン・ボナパルト失脚後のブルボン家支持者で構成される純粋な伝統主義者である。またフランス7月革命で成立したオルレアン朝支持者をオルレアニスト(革命的保守派)と言う。この二つに対抗するのがナポレオン三世を支持するボナパルティスト(非常に革命的保守派)で、これらをフランス保守の3派閥という。

中でも有力と言われるレジティミストは、アンシャン・レジーム(革命前の体制)の再構築とフランス革命による歴史の断絶をなくすことを求めおり、同時に伝統的価値観を守るという観点から、伝統的カトリック教徒と行動を共にすることが多い。現在スペインに在住するアンジュー公のルイ・アルフォンス・ド・ブルボン氏を「ルイ20世」として正統な王位継承者としている。

・日本に親近感
さて、フランス王党派は日本との親和性を感じている。日本は天皇陛下を仰ぎ、伝統を重んじる国であり、フランスの伝統的思想に相通じるところがある。

太平洋戦争に負けた日本は、連合国が押し付けた戦後レジームにより、伝統が一部破壊された歴史がある。戦後80年になっても完全に脱却できた訳ではないが、これまでは比較的リベラルでない保守政党が力を保ち、皇室も守られてきた。しかし、若干危険な状況になりつつある。日本の政治を見ていると移民政策、個人主義、ジェンダー平等など、リベラルな政策が展開されつつあり、皇室にも影響を及ぼす危険がある。

平成の自治体大合併は伝統を破壊した例の一つとも言える。例えば、田無市と保谷市が合併して西東京市となったが、歴史の香りが一切しない平板な名前となってしまったことは残念である。歴史という伝統を体現する地名を捨てることは文化を捨てることに匹敵する。しかも、ほとんど抵抗なく成されたところに伝統を守るという保守勢力の弱体化を感じるのである。

・伝えたい家族を守る運動
いまや、世界が左翼革命勢力の攻撃に晒されグローバル化・平等・リベラルという呪文の下、伝統的家族制度が攻撃を受けている。その結果、社会に少子化・高齢化をもたらしている。

今のフランスは左翼思想に毒された共和政で、その革命的国家と伝統を守りたい国民との間に軋轢が生じている状況にある。伝統を重んじるフランス人はフランス革命の頃から、国家が力を持つと伝統を破壊すると信じているから、国家を嫌う傾向にある。

ただし、国政は進歩的だが行政と軍人は保守的という文化もある。フランスが国として存続してこられたのは、行政や軍人が保守的だったからであろう。

最後に日本の人々に伝えたいことは、これまでフランスの保守派が苦労してきたように、左翼思想に毒されず国の未来に向けた運動が必要だということ。例えばフランスの正統王党派はこれまで国の悪政に対抗して家族を守る戦いを続けてきた。子々孫々に国の伝統を、躾を、道徳を伝える基盤が家族であり、絶対に家族を破壊するような政策にはNONを突き付けることが必須である。

【略歴】
1990年南フランスで生まれる。セルジー・ポントワーズ大学数学部卒、同大学院で歴史学修士、慶應義塾大学大学院経営管理研究科でMBAを取得。外資系銀行勤務を経て現在、國學院大學博士課程で法制史を専攻。訳書にルイ=ガストン・ド・セギュール著『地獄に落ちても構わない』(白百合と菊出版、2024年)などがある。 (文責:国基研)