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2025.11.26 (水) 印刷する

『高市総理の存立危機事態発言をめぐる台湾の本音』 インド太平洋戦略シンクタンク・矢板明夫執行長

11月21日のゲストスピーカーは、現在台湾でインド太平洋戦略シンクタンクを設立してCEOを務めている矢板明夫・国基研企画委員。現地台湾とオンラインでつないで話を聞いた。矢板氏は最近の台湾国内の様子を中心に解説し、その後、企画委員らからの質問に答えるなどして意見交換をした。矢板氏が語った概要と質疑応答は以下の通り。

【概要】
・台湾自身は日本を応援する

台湾海峡危機に関する高市総理の発言が日中間の問題となっている中、焦点となる台湾自身の中で今回の件がどのように受け止められているのか、台湾在住者の目で現状を伝えたい。
台湾の一部野党が「台湾を巻き込むな」と中国寄りの発言をすると、日本国内では「台湾は迷惑している」などと報じられていると聞くが、実際には高市総理への支持が広がっている。
例えば、頼清徳総統や外交部長が、日本の海産物を食べるパフォーマンスをXに投稿して日本を応援している。また、台湾の民間団体が「高市早苗友の会」を発足させる動きもあり、日本への支持は燎原の火のように広がりを見せている。

・高市発言の意味
今回の高市総理の発言は、中国による台湾侵攻の当事者が、これまで中国・台湾・米国の3か国だったのが、ここに日本が加わり4か国となり、状況が複雑化したことを意味する。つまり、米国の曖昧戦略が明確になるだけでなく、日本の介入によって、他の西側諸国が介入する可能性も生じる効果が期待される。

2021年12月1日に「台湾危機は日本危機」という安倍氏の発言に対して中国は当然抗議した。しかし、その当時の安倍氏は一国会議員であり、発言は民間団体の主催する会でのものだった。それに対し今回は、日本の総理大臣として、しかも国会での答弁である。この違いは、台湾にとって日台関係の大きな前進を意味する。

・中国はなぜ過激に反応するのか
かつてトランプ大統領が北京空爆の発言をしても、大きな反応を示さなかった中国が、今回過激に反応した理由は、習近平氏のメンツが潰されたためと推察される。10月30日に韓国で開かれたAPECにおいて、習近平氏と高市氏が会談した際、中国外交は成功したかのように中国国内で宣伝された。しかし、帰国して1週間という時期に高市氏の発言があり、中国の国家的威信が傷ついた。

この過激な反応は今後どうなっていくのだろうか。中国には成功体験(中国漁船の海保巡視船衝突事件で日本が譲歩した)があり、強く出れば日本は譲歩すると考えている。そのため、日本に対する圧力を硬軟織り交ぜながら継続するだろう。

では、日本にどこまで譲歩させようとするのか。それは、発言の撤回というよりも、高市総理の靖国神社参拝を阻止することにあると思われる。
今年は対日戦勝80周年にあたり、高市氏が靖国神社に参拝すれば、中国国内で反日デモが起きるだろう。その場合、デモの矛先が共産党政権に向かうことは避けられない。靖国問題は中国の国内問題となるため、中国としては何としても避けたいところだ。しかし、日本が譲歩すれば、中国に成功体験をさせてしまうことになる。日本は決して譲歩してはならない。

【質疑応答】
Q. 最近の頼清徳政権の対中姿勢について伺いたい。
A. 現在の台湾政界は与野党対立が激しく、決して一枚岩とはいえないが、頼清徳政権は中国に対して決して弱腰ではない。ただし、台湾が中国と対峙する場合、米台関係が背景として欠かせない今、米台関係があまり良好とは言えないことが懸念材料としてある。米国は、台湾の半導体メーカーであるTSMCの工場を米国内に建設するように圧力をかけており、現在、交渉中である。

Q. 中国人民解放軍の動きについて伺いたい。日本が譲歩しなければ、軍事圧力を強めるのか。
A. まずは経済制裁から圧力を強めるだろう。経済制裁は効果が目に見えやすく、中国国内に成果をアピールできるためだ。同時に、インフルエンサーを使って高市発言の撤回を求め、日本の世論を揺さぶる認知戦を展開するだろう。さらに、中国に親しい国々が高市批判を展開し、その次の段階として、軍事演習で圧力を高める可能性がある。日本を仮想敵国とした軍事演習は稀だが、台湾周辺で大規模な演習を行えば、日本に圧力をかけることが可能である。

Q. 中国の大阪総領事である薛剣氏をペルソナ・ノン・グラータ(PNG)として追放すべきか。
A. 米下院議長のペロシ氏が台湾を訪問した際、中国は台湾に対する経済制裁を行ったが、しばらくしてこれを解除した。日本の尖閣諸島国有化の際も、対日制裁としてレアアースの輸出を停止したが、しばらくするとそれを忘れたかのように行動する。したがって、日本が動揺して、慌てて言うことを聞く必要はない。
 薛剣氏の投稿は、中国の外交手段の一つでしかない。彼をPNGとして追放すれば、日本の毅然とした態度を示すことができる。しかし、薛剣氏が中国に帰国すれば英雄となり、中国国内で反日の波が起きる可能性がある。日本の外交官も追放され、在中国の日本企業が迷惑を被り、それが高市政権の責任とされるだろう。薛剣氏を日本に留め置けば、当然、日本で仕事ができない飼い殺し状態になる。追放しないという選択は、決して弱腰ではない。
(文責国基研)