今月の総合安全保障プロジェクトの月次報告会は、中川真紀・国基研研究員が「中国空母福建の就役」について報告した。続いて国基研企画委員の武居智久・元海幕長が「中国にとっての空母の価値」について、さらに米国とオンラインでつなぎ吉田正紀・元海将が「米国の中国空母保有に関する分析」について、それぞれコメントした。

早朝第1部は国会議員をはじめ企画委員に向け、昼からの第2部は主要メディアに向け実施した。以下、その概要を紹介する。
第1部:総合安全保障プロジェクト・月次報告会(午前8時~9時)
●『中国空母福建の就役』中川真紀・国基研研究員
【概要】
今回、就役が報じられた空母福建は中国海軍3隻目の空母になる。中国海軍の空母は、北部戦区(青島)と南部線区(湛江)の基地を母港としているが、その運用は海軍陸戦隊と同様に、中央軍事委員会が海軍司令部を通して直轄する可能性が高い。
空母福建の関連基地を概観すると、まず母港とされる海南島南部の楡林基地では、昨年後半から基地全体の拡張工事や桟橋の増設工事などが確認され、福建空母編隊を構成する艦艇の増加配備に対応する施設構築を企図している模様である。
また、すでに配備されている空母山東の艦載機を駐機する近隣の陵水飛行場だが、本年9月以降は、福建艦載機も確認できる。ただし、格納庫は2個空母編隊を収容するには不足しており、今後は増設あるいは、他の飛行場を利用する可能性がある。
〇空母福建の就役とその能力
さて、空母福建は2018年11月に上海江南造船所で建造開始が報じられ、3年7か月後の2022年6月17日に進水し、その後海上試験などを経て、建造から7年後の2025年11月5日に就役した。就役式典では、軍旗が授与された福建艦長と政治委員を両サイドに従えた習近平主席の様子が報道され、内外に対し大々的な宣伝を行った。
3番艦である空母福建は、他の2艦に比べ性能向上が図られている。例えば、満載排水量は8万トンで、山東の6万7千トンに比べ増量し、特に前2艦の発艦装置はスキージャンプ式だが、福建では初めて電磁カタパルト式が採用された。
福建は艦載機を標準的に40機搭載するが、その一部3機種の電磁カタパルトを使用した発艦訓練が9月22日に初公開され、国営放送CCTVでも動画が放映された。
公開されたのはJ-15T艦載戦闘機(強力な対艦対地攻撃能力を有する重型艦載機)、J-35ステルス艦載戦闘機(空母編隊での制空権奪取を主任務とする中型艦載機)及びKJ-600艦載固定翼早期警戒機(警戒探知・指揮誘導・目標指示・作戦調整等)であり、空母編隊の作戦統制範囲の拡大・作戦能力向上が見込まれる。
電磁カタパルトを運用することの意味は、艦載機の最大離陸重量が増えるため、燃料と兵装を増加でき、運用できる戦力が向上すること。また固定翼のKJ-600早期警戒機を運用できるので、中国本土の支援を必要とせず独自の早期警戒網を構築し、第1列島線東方での編隊行動が可能になることである。
他方、福建を米空母ジェラルド・フォード級と比較した場合、カタパルト長は約110mと同じだが、カタパルト数はフォード4に対し福建3、エレベーター数はフォード3に対し福建2であり、数値的に福建は見劣りする。
加えて、福建はフォードに比べ発射カタパルトと着艦甲板のラインが近く、同時発着艦に制限がかかること、エレベーターが発射カタパルトに近く、発艦時に使用不可となること、あるいは、動力装置が原子力でないため、発艦に必要な電力の安定供給に不安があること、などの弱点もある。それ故、当初は遼寧と同様に電磁カタパルト試験・練習艦として使用するのではないかと思われる。
さて、出撃能力を比較してみよう。米フォード級は訓練時160回/日、作戦時270回/日で出撃可能と報じられる一方、福建はJ-15Tを90秒で発艦し、1日当たり270~300回が可能と中国軍事専門家は評価する。しかし、上述の不具合があるほか、電磁カタパルトの不具合は米軍でも頻発していることから、米空母の6~7割程度の能力しか発揮できないと見積もられ、当初は1日当たり100回程度を目指して訓練し、徐々に慣熟させるものと推測する。
〇今後の戦力化の見通し
中国空母編隊の構成については、第1列島線を越えて西太平洋で実施された6月の対抗訓練時の状況から、レンハイ級ミサイル駆逐艦を旗艦として補給艦、高速戦闘支援艦あるいは潜水艦を含めた空母打撃群を構成するものと推察される。
陸上飛行場から遠く離れた西太平洋で対抗訓練を実施できたということは、空母艦載機が不測事態発生時にも対応できるまで練度が向上していることを意味する。
さて、福建就役後の戦力化に向けた時程であるが、同じく国産空母の山東の時程を参考にしてみたい。山東は就役後5か月で初の航行訓練を、1年5か月で南シナ海にて訓練を実施し、3年4か月で西太平洋に進出した。
福建も山東の経験をもとに戦力化の速度を増し、電磁カタパルトに問題が発生しなければ、かなり無理をすることになろうが、2027年の建軍百年には太平洋に進出する可能性がある。
仮に台湾侵攻事態での空母運用を想定すれば、性能の違う3隻では、整備・訓練・任務のローテーションは第1列島線内のみ可能で、戦時の3隻体制が完成したとは言えない。
スキージャンプ式空母は第1列島線内にとどまり領域拒否(AD)を、カタパルト式空母は第1列島線の東で米軍の接近阻止(A2)に任ずることができるであろうが、米空母の能力には及ばず、中国大陸の対艦弾道ミサイルと連携する必要がある。
平時の運用であれば、西太平洋に1隻の常時展開が可能となるので、プレゼンスの発揮、台湾への威嚇、情報収集や哨戒などで、戦時に備えることが見込まれ、わが国の対応に大きな影響を与えるだろう。
〇次期空母建造の可能性
武漢にある中国船舶集団第701研究所には模擬空母を建設して研究を重ねてきたことが衛星画像から明らかである。空母山東の場合、2010年8月に模擬空母の画像が確認された3年後の2013年に起工した。福建の場合、2017年4月に確認されて1年後の2018年に起工した。
同じ場所で、2024年7月以降工事が確認され、2025年4月までに、船体幅を拡張しアイランド(艦橋構造物)を後方に配置した画像が確認できる。したがって、2024年には次期空母の設計が決定した可能性がある。
一方、大連造船所には空母山東を建造したドック(船渠)があるが、そこで新たな大型船舶を建造するための盤木の設置が2025年2月、衛星画像で確認された。その後11月になると、原子炉格納容器の可能性がある形状が2つ確認された。仮に当該形状のものが原子炉格納容器とすれば、7年後にはカタパルト式原子力空母が就役する可能性は否定できない。
〇中国海軍戦略と空母
中国の海軍戦略は、戦後まもなくは「沿岸防御」であったが、1980年代になると劉華清海軍司令官による「近海防御戦略」が発表された。2000年代に入り近海防御の戦略縦深を逐次増大させ、2015年の白書では海洋権益を擁護する「近海防御・遠海護衛」に、2019年の白書では、「近海防御・遠海防衛」へと記述が変化した。
今回の空母福建の就役により、遠海防衛戦略に向けての第1歩を踏み出したものと評価できる。建国100年の2049年までの目標である「世界一流軍隊の全面的完成」は、原子力空母3隻で整備・訓練・任務のローテーションを完成させることを目指している可能性がある。わが国は、長期的戦略をもって対応する必要がある。
資料PDF 空母福建の就役※衛星写真の使用申請が終了したため差替。
●『中国にとっての空母の価値』武居智久・国基研企画委員
主要国で空母を保有する際、海軍の兵力組成(種類・数量など)に影響する事項を分析する必要がある。例えば各国の戦略環境は重要な要素になる。大陸国家では陸軍中心になり、海洋国家では海軍中心となるのは当然の帰結である。海外領土の有無も影響するし、空母のような高価な兵器を持つには、それなりの国力がなければならない。
劉華清提督の時代から中国海軍は計画的に発展してきた。中国の戦略環境に照らせば、大陸国家である中国にとって空母の戦術的価値は小さい。加えて、重層的なA2/AD内であれば、本土防衛目的での空母の価値は更に小さくなる。
歴史上、大陸国が大規模な陸軍力と海軍力を併せ持った例はないので、中国空母の用法を予測できる先行事例もない。よって、当面中国にとって空母の価値は戦略的なものにとどまる、すなわち、もっぱら大国としての国威発揚、砲艦外交的な使用、国内のナショナリズムの高揚を目的として運用すると思われる。台湾有事における空母の戦術的活用法は今後の研究課題であると考える。
●『米国の中国空母保有に関する分析/対応の変遷』吉田正紀・元海将
2006年の米国議会報告(中華人民共和国の軍事力2007)は、中国が海洋権益を守るため空母保有を必要不可欠と考えていることを指摘した。実際、当時の米太平洋軍司令官キーティング大将も中国が空母建造を欲していることを明言している。ただし、2009年の時点で米海軍作戦部長ラフヘッド大将は、中国が空母戦闘群を運用するには100年はかかるとの認識を示していた。実際その結果がどうなったかは、中川氏の報告のとおりである。
2019年に中国は初の国産空母山東を就役させると、2023年の米国の年次報告書(2024中華人民共和国の関与)では、中国海軍を「数値的には世界最大の海軍」とし、空母山東を「第1列島線(FIC)を超える任務を遂行する能力を向上させた」と評価した。
また同報告書では、「中国は多空母部隊の運用の初期段階にある」とした上で、新型空母福建が中国海軍の空母戦闘群の攻撃力を向上させると評価した。
米国と同盟国日本は、この現実を厳しく受け止め対応する必要があるだろう。中国は、第1列島線、第2列島線という概念を冷戦思考であると否定し、空母戦闘群がグアム沖やインド洋に展開することを当然だと報じている。今後、南鳥島沖のレアアースをめぐる資源獲得競争に、中国が軍事力を背景に威圧してくることも想定すべきではないか。
第2部:総合安全保障プロジェクト・メディア向け報告会(午前11時半~午後1時)
昼から実施したメディア向け報告会では、中川研究員が「中国空母福建の就役」を、続いて武居企画委員が「中国にとっての空母の価値」を、さらに吉田元海将が「米国の中国空母保有に関する分析」を報告した。
報告の後、出席記者からの質問に答える形で補足説明も行われ、活気ある議論が展開された。質疑応答の一部を以下に紹介する。
【質疑応答】
Q:4隻目の空母が原子力動力ということは公式発表か。中国にその技術力はあるか。
A:公式にはまだ発表されていない。技術力という点では、原子力潜水艦建造の実績があるので、建造能力はあるだろう。ただし水上船の存在はまだ確認されていない。
Q:中国の「遠海防衛」という言葉の地理的概念は何か。
A:遠海防衛戦略における「遠海」には特別な地理的定義は存在しない。中国の海外権益を守るという観点から、近海から遠海に用語が変化してきたと考えられる。ジブチなど中国が海外進出している場所や、そこに至るシーレーンを含めた概念だと思われる。
Q:2027年までの台湾危機を想定したデービッドソン・ウィンドウとの関係で、福建の戦力化は間に合うのか。
A:米海軍でも、電磁カタパルト装備のジェラルド・フォード級も様々な試行錯誤を繰り返し、空母戦力化には相当な時間を要しており、福建の戦力化が間に合うかについては一概には言えない。しかし、試験段階であろうとも中国の政治的意思次第で空母投入は決定されるという点を忘れてはならない。
Q:中国の空母は戦時には水中からの攻撃に対し脆弱なので、米潜水艦の餌食になり易く、無駄な戦力になるのではないか。
A:確かに弱点があることは否めないが、100年先を見据えていると考えれば、無駄な投資とはいえないだろう。
Q:福建の戦力化までには、実際どのくらいの時間がかかるか。
A:山東も西太平洋に出るまでに3年かかった。あとは電磁カタパルト次第という側面がある。
この総合安全保障プロジェクトの月次報告会・記者向け報告会は、今後とも継続実施していく予定である。 (文責 国基研)





