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2011.07.29 (金) 印刷する

「福島第一原子力発電所の事故と我が国」 黒木昭弘 日本エネルギー経済研究所 常務理事

財団法人日本エネルギー経済研究所の黒木昭弘・常務理事は7月29日、国家基本問題研究所で意見交換を行い、「福島第一原子力発電所の事故と我が国 エネルギー需給の将来」について語った。黒木常務理事の主な発言要旨は次の通り。

原子力は安全になるか?どこまで原発に頼れるのか?

1)一番古い原子炉、BWR(沸騰水型軽水炉)が事故の原因。津波に襲われた原発は四か所あったが、そのうち女川、福島第二、東海第二の三か所は安定冷却に成功している。福島第二、東海第二は、古い MarkⅠ型を改良した MarkⅡ型だった。原発はさらに MarkⅢ型など年々改良され、安全性は格段に上がっているが、それでも今後、原子力に多く頼るのは難しい状況だ。原子力計画はこれまで常に過大、非現実的に作成され、計画の達成率はいつも半分ぐらいだった。1998年の見通しでは2010年には原子力発電は7000万kwから8000万kwになる予定だったが、実際に実現したのはその半分ちょっと。

2)事故前でも原発の新規立地は難航していたが、今回の事故で国民の理解を得るのは一層難しくなり、今後少なくとも20年間は新規立地の話はあり得ないだろう。また、使用済み燃料の貯蔵も福島第二や東海第二を皮切りに次第に満杯に近付き、貯蔵問題からも原発体制の縮小を余儀なくされるだろう。さらに、原子力計画は核燃料サイクルという妄想に縛られており、カギとなる高速増殖炉(FBR)の実用化はまずないと思う。FBR が実現できなければ、核燃料サイクルは無意味であり、プルサーマル発電は単につなぎ以下となろう。

新エネルギーは頼りになるのか

1)環境派の好きな新エネルギーは、農業用水を利用する小水力、太陽光、風力で、嫌いなのが大規模水力、地熱、廃棄物利用などのバイオマスだ。新エネルギーは、エネルギーの密度からみると、一番小さいのが太陽光、次に風力、(波力)小水力と続き、中・大規模水力、バイオマス、(化石燃料)といくに従ってエネルギー密度が大きくなる。エネルギー密度が低いということは、コストが高くなり、非常に使いづらい。小水力についてはかって北朝鮮が頑張って取り組んでいたが、そんな小さなものを一杯作っても役立たない、ということで2年ぐらいでやめている。

2)ドイツでは風力発電が総発電電力量の6%に達したが(2008年)、そこで壁にぶつかり、発電量が下がり始めた。理由は、需要が低くなる夜間に風が強くなるなど需給のアンバランスがあるためだ。電気は貯めることができないので、需要より多く電気を送ると、電圧が上がり、逆の場合いは電圧が下がってしまう。このため、未確認情報だが、電気が余る夜間にポーランドに対し補助金付きで電気を送電しているともいう。対応策として送電網の強化や揚水発電の設置、さらに分散化した電力ネットワークを構築するスマートグリッドが考えられる。しかし、どの対応策も直ぐには実現不可能。ドイツの風力が6%の壁を越えて、10%、15%に増えるというのは、まず考えにくい。

3)風力には日本特有の問題がある。台風やハリケーンのないヨーロッパと違い、日本は台風の襲来コースにある。秒速20m程度以上になると、安全上の理由から発電を停止、そして広範な地域で風力発電が一斉に停止する事態も想定せざるを得ない。その場合、代替電源をどうするか。風力が総発電量の10%を超えるような比重になっていると大きな問題となる。

4)太陽光導入コストは新エネルギーの中で断トツに高い。ドイツの太陽光補助は年間120億ユーロ(約1兆3000億円)。にもかかわらず、太陽光の貢献度は全エネルギーの0.5%以下(ニューズウィーク誌ドイツ版)では、あまりにも無駄遣いが過ぎる、との批判が近年出ている。

5)スペインの太陽光は挫折した。高額の固定価格買い取り制度(FIT)でバブル状態になり、政府は2008年、それ以前の契約にも遡ってFITを減額した。スペイン政府の負債総額は1260億ユーロ(約14兆円)(ブルームバーグ経済通信)にも達し、2009年、太陽光の新たな導入は10分の1以下になった。

6)地熱発電の問題は、資源のほとんどが国立公園や国定公園内にあり、環境保護行政の障害にぶつかっている。温泉量が減るとの不安から反対運動も根強い。しかし、自然エネルギーの中では低コストであり、キロワット時(kwh)20円のTIFが採用されればコストの問題は解決する。日本として今後活かしていける資源ではないか。

今後の日本のエネルギー

1)政府の2030年目標(発電電力量の5割は原子力、2割が再生可能エネルギー、2割石油・液化天然ガス等)は絵に描いた餅。

2)省エネは最大期待値でも10%。15%の削減になると、工場など生産面で犠牲がでかねない。長期的には10%が限度だろう。

3)原子力は、楽観的に見ても、長期的に期待できるのは2000万から3300万キロワット(kw)。稼働率の低下を考えると原子力の貢献率は13%から23%程度に低下。中長期的には10%から20%程度の不足となる。

4)現実的には石油、天然ガスで代替。原子力がすべて止まった場合、すべて化石燃料で代替すると、年間3.5兆円の追加コスト(石油、ガスの単価が一定と想定して。日本が大量の燃料を購入するとなると大幅値上げの可能性大)となり、貿易収支の悪化は避けられない。

5)今後12年は原子力の再起動問題で一番厳しい状況となる。原子力依存率が高い西日本はより厳しくなろう。原子力依存率は東京の25%に対し、関西は50%、四国でも40%もある。そうなると、海外への工場移転の話も現実味を帯びてくる。

(文責 国基研)

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