冨山研究員と湯浅企画委員から指摘をいただきましたので、お答えしたいと思います。
まず湯浅氏からの指摘についてですが、私は日本の新聞よりも人民日報が正確といっているのではありません。中国のメディアを通して見ると米中首脳会談はまた全然違って見えるという指摘をしたのです。
これについては別のテーマで話をしましょう。例えば今年6月のG7サミット後には各紙横並びで各国首脳が「中露の現状変更を批判」と書いたと記憶しています。しかし中ロの問題はホスト国のドイツが最も力を入れた議題だったでしょうか。南シナ海の問題が話し合われたことは確かでしょうが、それが会議のなかでどのくらいのボリュームであったのか正確に把握することのできた日本人がどれほどいたでしょうか。それ以前にサミットが圧倒的に多くの時間を地球の温暖化問題に割いたことを日本人は知っているのでしょうか。
同じように昨年11月に北京で行われたAPECはどうでしょうか。日本の新聞はやはり横並びでAPEC報道のほとんどを日中首脳会談に費やしました。一方の中国は日中首脳会談以外にも膨大な情報を発信しました。むしろ日中首脳会談のために割いた紙面はほとんどなかったという状況です。
アメリカは別格としてもインドネシアとロシアがその主役だったからです。インドネシアの優遇は日本人からすれば意外かもしれませんが、APECを「一帯一路」を具体化する場と位置づけたかった中国にとっては当たり前のことでしょう。
しかし日本で「一帯一路」が認知されるようになるのはAPECから半年後の今春。AIIBが話題になってからのことでした。テレビのニュース番組で「実はAIIBの裏にはこれがあります」と「一帯一路」がフリップに出されるのを見たときは、ため息の出る思いでした。ちなみに「一帯一路」が最初に出されたのはAPECからさらに一年以上前の2013年9月。APECでも膨大な言及がありましたが、これほど大切な情報が日本人の耳に届いていないのはなぜなのでしょうか。
日本が注目するニュースと現実との間にかい離があることを認めざるを得ない状況なのではないでしょうか。
左右に分かれて切磋琢磨する日本のメディアが信頼できないか否かではなく、日本に届けられるニュースが国際社会の中でどのように位置づけられているのかが伝わっていないという問題なのです。
これは本来であれば、紙媒体の頂点である新聞が担うべき役割ですが、残念ながら現状を見る限り、「読者が求める話題だけがニュース」という商業ジャーナリズムが抱える悪弊が作用したとしか思われない状況です。ならば読者は、むしろ「人民日報」やアメリカのメディアがどう報じているのかを見て、考えを深めるべきではないかというのが私の指摘です。
「人民日報」を引用したのは、同紙が間接的にAIIBと国連演説で言及したもう一つの国際金融機関について触れた記述がもっと重視されても良いと考えたからです。
今回の米中首脳会談の入り口で両国が互いに10年間のマルチビザを発するというパフォーマンスから入り、中国はわざわざ「13次5か年計画」についてアメリカに先に報告を行っています。それに続いて国連で発表する予定であった新たな金融機関についても中国は先にアメリカに相談していたことが明らかになったという流れのなかに位置づけられるからです。日本にとって十分注意を向けるべき動きではないでしょうか。
今春、突然AIIBへの参加を表明して世界を驚かせたイギリスの対中政策の変化は、中国人に対する大幅なビザ緩和から始まったことを考慮すればなおさらです。
国際政治の分析において重要なことは、懸念されるシグナルに敏感になることであり、「中国がアメリカに冷たくされた」、「あーよかった」ではないはずです。しかし、YAHOOの検索をすれば明らかなように「習近平」、「訪米」というキーワードを入れた瞬間に、予測検索の3番目の文字には「失敗」という文字がトップに表示されるのです。つまり日本人がこうした言葉を組み合わせて検索することが多いのです。こうしたものの見方が世界に通用するのでしょうか。冷徹に日本の利益を見抜いてゆこうとする者のとるべき姿勢なのでしょうか。
次に冨山氏の提起した「新大国関係」の指摘は重要で、小さな変化にも視点が向けられていることに敬意を表します。
私自身、今回の訪米ではこの「新大国関係」という言葉の意味が、従来私が考えていたような「アジアにおける中国のリーダーシップをアメリカが一定程度認める」といったものではないかもしれないと、考えの修正を迫られています。中国がいうように「違うイデオロギー、違う歴史、違う政治制度の大国同士が協力関係を模索する実験」といった視点から見てゆくべきなのかもしれません。これについてはもう少し時間を頂きたいと思います。
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