日本の閣僚の靖国神社参拝に関しては、日中間に「非公式了解」なるものが存在すると囁かれてきた。それどころか、いまでは中国側において、公然と存在を示唆する発言も出ている。例えば中国共産党の対外スポークスマン役も担う劉江永清華大学教授は次のように述べている。
劉氏の発言をそのまま引用すると以下のようなものだ。
《(1985年に中曽根首相が公式参拝した)その後の交渉の末、86年から日本との間で暗黙の政治的了解が得られます。つまり、日本側は現職の首相と外相、官房長官が公式の立場で靖国神社に参拝しない代わりに、中国側は外交問題化しないという了解です。ただし、だからといって、私的参拝を容認するものではありませんが。》
この発言は、『日中韓歴史大論争』(文春新書、2010年)から採った。ちなみに、同書の座談会には日本側から、国家基本問題研究所の正副理事長である櫻井よしこ、田久保忠衛両氏が参加している。なお筆者自身、劉氏発言と正確に符合する、「首相、外相、官房長官だけは参拝すべきでない」とする言葉を外務省幹部の口から聞いたことがある。
その後2001年に、当時の小泉純一郎首相がいわば殻を打ち破ったわけだが、続く民主党政権は、再び殻の中に戻ってしまった。保守派とされた野田佳彦氏も首相時代は、全閣僚の参拝自粛という方針を打ち出している。主要3閣僚の不参拝という日中「非公式了解」自体、本来あってはならないものだが、野田政権の参拝自粛は、それをさらに超えた異常な自己規制であり、不見識というほかない。
安倍晋三首相が、今のところ一度だけとはいえ、再び殻を破ったのは、日本政治を正常軌道に載せる上で英断であった。
いま、稲田朋美新防衛相が靖国神社に参拝するかどうかが注目されている。上に見たとおり、仮に「非公式了解」なるものが存在するにせよ、防衛相は含まれていない。稲田氏は信念に基づき、防衛相として粛々と公式参拝すればよい。仮に「外交問題」になれば、敵基地攻撃能力の整備検討を打ち出すなど、より大きなニュースを生み出すことで乗り越えていく。そうした気構えが重要ではないか。
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