公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2017.05.29 (月) 印刷する

ブレジンスキー氏の死去に憶う 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 カーター米民主党政権時、大統領の国家安全保障問題担当補佐官(1977年1月20日~1981年1月21日)を務めたズビグニュー・ブレジンスキー氏が5月26日死去した。
 筆者は1994年に、米ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院(School of Advanced International Studies-SAIS-)で彼の講義を半年受けたことがある。受講者は20名に限られ、それに選抜されるためには小論文を提出し、彼の選考を受けなければ受講できないという狭き門であった。国家安全保障問題担当補佐官としての経験からも全世界の紛争潜在地域について深い洞察があっただけに大変ためになった課程であった。

 ●「日本はアメリカの保護国」の波紋
 彼には1972年に上梓した『ひよわな花・日本(原題The Fragile Blossom)』という著書がある。外交・安全保障分野で日本の自主性を促す内容であった。また1997年には『ブレジンスキーの世界はこう動く(同The Grand Chessboard)』という本を書き、その中で彼は、日本をアメリカの「事実上の保護国(de facto protectorate)」と称した。それに反発した日本人記者が「保護国とは何事か」と彼を問い詰めたのに対し、彼は「保護国と呼ばれて悔しかったら、そうならないように努力すべきだ」と反撃したことを今でも鮮明に覚えている。
 5月3日の憲法記念日に安倍晋三総理は「憲法9条の1項と2項は残しつつ3項を設けて自衛隊の存在を明記する」ことを一案として国民的論議を期待する映像メッセージを、憲法改正を求める国民会議で流した。これに対して一斉に野党は噛み付いたが、「交戦権や戦力を保持しない」という9条を現状のままにしておくことは、「自衛隊は戦力ではない」とする全世界の誰もが信じていない詭弁を固定化してしまうことになる。
 筆者の友人である米国の高級軍人から「いつまで日本は自衛隊を戦力ではないとして誤魔化しを続けるつもりか」と問い詰められたことがあった。9条を変えないということは、この国は依然として「アメリカの保護国」に甘んじるということに他ならない。一体それで良いのだろうか。