公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2019.02.07 (木) 印刷する

虐待対策は子供に寄り添った視点で 杉田水脈(衆議院議員)

 年が明けたばかりの1月、またしても痛ましい事件が発生しました。千葉県野田市で小学4年生の少女が、父親の虐待により命を奪われたのです。10歳の少女の命を奪うほどの暴力。その陰惨さを考えると胸が引き裂かれる思いです。一体なぜ、悲惨な児童虐待が繰り返されるのでしょうか。

 ●マンパワー不足の子育て支援
 この問題は、現代社会を蝕むいくつかの要因が複雑に絡み合って起こっていると考えられます。まず、児童を保護する施設、部署の予算、そしてマンパワーの不足が第一に挙げられると思います。
 私は以前、人口48万人の中核都市の子育て支援を担当する部署で働いておりました。児童虐待は「母子支援チーム」というところが担当していましたが、実務を行っているのは年配の嘱託職員の女性2名でした。「母子支援」なので、児童虐待だけに専念するわけではなく、シングルマザーやDV被害者の支援といった業務も彼女たちが担当します。
 通報があると出かけて行って子供を保護し、児童相談所(管轄は市町村ではなく都道府県)や警察と連絡を取り合いながら、処遇を決定します。一言で「児童虐待」と言っても、ひどい暴力を振るわれているものからネグレクト(育児放棄)まで様々なケースがあり、高い専門知識が要求されます。
 また、親が抱える問題も複雑で、そこに寄り添う努力も必要です。
 児童虐待は、事件になって初めて報道されることが多いですが、それは氷山の一角に過ぎません。水面下ではすさまじい数の子供たちが助けを待っています。
 高齢者福祉と児童福祉の予算は30年前まではほぼ同額でした。現在、児童福祉の額は当時からほぼ横ばい、その一方で高齢者の方は10倍になっています。少子高齢化の結果といえばそれまでですが、子供の命は大人にしか守れません。その配分を大胆に考え直す時が来ていると思います。

 ●なぜ増える「虐待する大人」
 虐待されている子供を救うことと、虐待する大人をなくすことは車の両輪です。最近の議論では後者の視点が抜け落ちていると思います。なぜ虐待する大人が近年こんなにも増え続けるのか。教育の問題なのか、経済的な問題なのか、はたまたもっと違った要因があるのか。そういった研究もしっかりと進め、対策を急ぐべきです。
 私は、かねて日本の児童福祉の分野において「子供に寄り添った視点」が欠けていると指摘して参りました。少子化対策一つをとっても子供に寄り添った視点は置き去りで、大人目線の政策ばかりが先行しています。他国の事例も含めしっかり検討し、「これ以上小さな命をなくさない」覚悟ですべての大人が取り組むべき一番の課題だと思います。