公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2019.03.26 (火) 印刷する

海保と海自は共用性を確保すべきだ 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 米海軍のイージス駆逐艦カーチス・ウィルバーと沿岸警備隊の巡視船バーソルフが、3月24日、台湾海峡を通過した。米海軍の艦艇が台湾海峡を通過するのは昨年10月以降、毎月行われているが、沿岸警備隊の巡視船が加わるのは初めてである。米国の軍艦と巡視船は、同じ指揮・管制・通信・情報システムであるため、同じ戦術ピクチャー(状況図)を共用することができる。弾薬・燃料・階級章に関しても同じであるが、海上自衛隊と海上保安庁の間には共用性がない。これでは純然たる平時でも有事でもない事態、いわば「グレーゾーン事態」での円滑な作戦に支障が生じかねない。

 ●GHQ時代のソ連の意向
 海自艦と米海軍(艦艇だけでなく航空機も含む)・沿岸警備隊巡視船の間ではデーター・リンク11によってリアルタイムに戦術ピクチャーが共用できる。だが、海保の巡視船は対空レーダーや水中センサーを保有していないばかりか、独自の指揮・管制・通信・情報システムであるため、情報を共有することができない。
 従って、海自艦の方が、情報量において圧倒的に優れた情報を保有しているにもかかわらず、昨年、世界平和研究所と日本国際問題研究所が公表したグレーゾーン事態に関する研究では「海上における警備行動で海保が海自を統制する」と提言している。
 海保が海自と共用性を持たない最大の理由は、米沿岸警備隊が陸・海・空・海兵隊と同様の軍組織として位置付けられているのに対し、海保は海上保安庁法第25条によって「この法律のいかなる規定も海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない」と規定されているためである。
 この25条が、日本の再軍備を恐れた旧ソ連の対日理事会(米英ソ中の代表からなる連合軍総司令部の諮問機関)代表クズマ・ニコラエヴィチ・デレビヤンコ政治中将が強硬に主張して挿入されたことは、2016年11月28日の「ろんだん」で既に述べた。

 ●弾薬・燃料の相互融通に支障
 バーソルフは米海軍と同じ57ミリ単装速射砲や20ミリ多銃身機銃ファランクスを装備している。海自艦も同じファランクスを装備しているため、仮に3者のいずれかで弾薬が不足した場合には洋上補給で融通し合うことができる。しかし海保の機関砲は規格が異なる。
 また、バーソルフ級巡視船のエンジンは、米海軍や海自の主要艦が使用しているLM2500ガスタービンとディーゼル・エンジンの組み合わせである。従って、燃料補給に関しても洋上で互いに同じ補給艦から燃料を受けられる。しかし、海保の巡視船はA重油と軽油で異なる。にもかかわらず、前述の世界平和研究所のグレーゾーン事態研究の提言3には「海自が海保巡視船に洋上補給して」とある。
 階級章に関しても、海保の階級章は「中尉」である1本半の階級章がない。同じ本省(庁)の部長クラスでも、海自は将補(米海軍では少将)の階級章を着用しているのに対し、海保は中将に相当する階級章を付けている。
 米海軍は東太平洋におけるグレーゾーン事態に対応するため、米海軍大学校で行われている図上演習に、昨年から外国の沿岸警備隊幹部を招待しているが、海保幹部だけは1ランク上の階級章という奇異な光景になっている。
 中国の沿岸警備隊にあたる海警は、昨年から軍の指揮下に入っている。グレーゾーン事態での作戦対応がクローズアップされる今日、海自と海保の共用性は早急に改善するべきではないか。