公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2020.02.06 (木) 印刷する

地球温暖化は止まっていない 奈良林直(東京工業大学特任教授)

 国基研の月例研究会などでもご登壇されておられる米アラスカ大学国際北極圏研究センター初代所長の赤祖父俊一氏らが2月5日の「ろんだん」で「地球温暖化は殆ど止まっている」と書いている。赤祖父氏は2018年9月10日の今週の直言【第542回】でも同趣旨のご主張をされているが、どうも違うと感じている。一昨年、昨年の北半球の猛暑を超えた酷暑や、昨年のアマゾン、アフリカ、オーストラリアの猛暑と干ばつ、それによって引き起こされた激しい森林火災を見ると、やはり温暖化は進行しているのではないか。

 ●猛暑が示すデータの再上昇
 赤祖父氏が前述の「ろんだん」で引用しているのは、アメリカの科学誌「サイエンス」が2009年10月2日号の論稿で掲載したグラフと思われるが、それだけを見れば確かに気温上昇は止まっているように見える。しかし、これは2008年までのデータであることに注目したい。
 気象庁が速報として公開した最新データ(下図)を見ると、現在、北半球と南半球で発生している猛暑を示すように、2012年あたりから地球平均の温度差が再び鎌首を持ち上げていることがわかる。地球温暖化は止まっていないのである。

世界の年平均温度偏差

 気象庁のグラフは都市化に伴うヒートアイランド現象がある計測地点を除外し、温度変動の偏差を平均することにより、計測点による気温の影響を受けないようにしている。
 たしかに図を見ると1900~1910年には温度の低下期間、1948~1976年には約30年間の温暖化停止期間がある。だが、これらは気温の自然変動が長期的な赤の上昇直線に重畳して、温度変動が見かけ上平坦に見える期間や下降する期間を作っているのであり、1890年から2019年までの100年余りで見ると0.7度の温度上昇を示している。
 つまり、世界のスパコンの予測にはばらつきがあり、過大なものもあるかもしれないが、「2000年から気温上昇は30年ほど止まる」とした赤祖父氏の「今週の直言」の結論は、実際のデータにより否定されたといえる。

 ●CO2 と気温には強い相関性
 筆者は、北海道大学(以下北大)に2005年に赴任し、2018年まで工学研究院のエネルギー環境システム専攻(部門)に所属した。情報交換を行っていた低温科学研究所には、マイナス50度の冷凍庫があり、南極の氷を数千メートルの深さまで採取した氷柱が多数保管されている。これをスライスして、中に溶け込んでいる空気を分析すると、過去72万年に及ぶ地球の大気組成と気温がわかるのである。
 気温は、生物が活発に活動しているときに作られる酸素の同位体(陽子の数は同じだが中性子の数がちがう元素)の比率で推定できる。北大と東北大がそれぞれ独自に行った算出結果は、ぴったり一致しており、信頼性が高い。これによれば、赤祖父氏が主張されるように、地球は過去に何度も氷河期と間氷期を繰り返してきたことが分る。重要なことは、CO2の濃度と気温に強い相関性が見られることである。また、CO2の濃度が低下し過ぎた時期は地球表面が凍る「全球凍結」の時期と一致していることもわかっている。CO2の濃度は適値があって、下がり過ぎてもいけないのである。

 ●地球1周1mなら大気は1mm
 問題は、現在が、過去の地球の72万年の変動の幅を極端に逸脱していることで、それを認識することだ。スパコンの予測が外れるのは、気候予測モデルでの海洋のモデリングがうまくできていないからだと考えられる。
 大気の厚さはたかだか40km。地球は1周4万kmだが、仮に1周を1mにすると大気の厚さはわずか1mmということになる。大気は地球表面にこびり付いている薄い毛布のようなものであり、その気体の温度は地表から反射する赤外線の他に、海水温度や海流に大きく影響される。
 近年、日本近海やフィリピン海域、メキシコ湾のいずれも海面温度が1~2度上昇しており、これが台風やハリケーンへ蒸気によるエネルギーを供給している。陸上で弱った台風が海に抜けると再び勢力を回復して、強い被害をもたらしている。
 北極の氷も大幅に減少し、ロシアの貨物船が航行するようになった。雪の大地のグリーンランドは、雪が溶けて緑の大地に変わりつつある。温暖化は、気象の粗暴化をもたらし、スウェーデンでは2019年1月に真冬の暴風雪で大停電が発生した。停電した地区から抜け出すのは命懸けであったという。

 ●再エネ神話は終わりにせよ
 しかし、より大事なことは、赤祖父氏が主張される「環境原理主義」とも言える欧州を中心とした「再生可能エネルギー至上主義の暴走」を止めることである。太陽光や風力発電の不安定な電源に膨大な投資をしたにもかかわらず、これらの再エネ発電が行われていないときには電力需要を補完するために石炭火力や天然ガス火力が必要となる。
 このため、CO2の排出量は減っていない。スウェーデンやフランスは水力と原子力の比率が高い。1kWhの発電に対するCO2の排出量は、それぞれ11グラムと46グラムで、脱原発・再エネ推進政策をとるドイツの390グラムよりも1桁少ない。ちなみに日本は540グラムである。
 スウェーデンの少女グレタさんは、授業ボイコットなどせずに「理科の勉強をして、スウェーデンのように水力と原発を使いましょう」と言えば、近い将来、CO2の排出は確実にゼロにできるのである。それができるまでの間、火力発電所は必要で、それをボイコットすれば、停電が起きて人の命が危険に晒される。
 経済活動も最近のドイツのように落ち込む。経済的にあまりにも国民負担が大きい「太陽光・風力の再エネ神話」はそろそろ終わりにしなければならない。その点では、赤祖父氏のご主張に賛成である。