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2020.12.07 (月) 印刷する

「夫婦別姓」と「少子化」は別問題だ 髙橋史朗(麗澤大学大学院特任教授)

 選択的夫婦別姓制度をめぐる論議の攻防が正念場を迎えている。11月24日に自民党の「氏の継承と選択的夫婦別氏制度に関する有志勉強会」、25日に「『絆』を紡ぐ会」、26日に「保守団結の会」、12月1日と3日に「女性活躍推進特別委員会」、4日に同委員会・内閣第一部会合同会議を開催、8日に再び同合同会議を開催し、第5次男女共同参画基本計画案をめぐる自民党の論議を終えて、18日に男女共同参画会議で正式に決定し、閣議決定される見通しである。

私は11月11日に首相官邸で開催された男女共同参画会議でこの問題について発言し、11月24日に開催された第5次男女共同参画基本計画第8回専門調査会に意見書を提出した。

第5次基本計画案の選択的夫婦別姓論議に関する私の見解の要点について述べたい。

「子供の利益」の視点が欠落

第一に、11月25日に自民党の政策審議会が了承し、党の方針として菅総理に申し入れた文書には、「実家の氏が絶えることを心配して結婚をためらうひとりっ子の女性・男性がおり、少子化の一因ともなっている」「国際社会において、同氏を法律で規定しているのはわが国だけである」等と書かれ、第5次基本計画案にも盛り込まれた(産経新聞12月4日付)が、少子化の原因と結果を取り違えている。

また、文書では国際的視点が強調されているが、社会の基盤である家族の保護は世界共通のものであり、夫婦が共通の姓を使用する国は、インド、タイ、スイス、イタリア、アルゼンチン、ペルー、オーストリア等があり、ファミリーネームの尊重が世界的潮流である。

第二に、「女性の不便さ」「女性の自由」が唯一の論点のように議論されているが、親の都合、親個人の自由が最優先で、親が必要な時だけ支え合う家族では、「子供の最善の利益」が損なわれるという視点が欠落している。

家族とは、子供を健全な大人へと育てる重要な存在であるという視点から、法制度を整える必要がある。家族の一体感よりも個人の自由や権利を優先すれば、家族の支え合いが弱くなり、結果として家族がバラバラに解体する方向へ向かいかねず、その時に不利益を受け犠牲になるのは、親の支えが必要な子供であることを忘れてはならない。

6割以上の国民が、夫婦別姓が「子供に好ましくない影響を与える」と考えている事実を軽視してはならない。ちなみに内閣府の世論調査によれば、そのように考える人は、平成8年は68%、13年と18年は66%、24年は67%、29年は63%に及んでいる。

同一姓の意義認めた最高裁

第三に、最高裁大法廷判決(平成27年)については、選択的夫婦別性を認めた少数意見が強調されているが、同判決は「家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位として捉えられ、氏(姓)には家族の呼称としての意義があり、その呼称を一つに定めることには合理性が認められる」とし、「子の立場として、いずれの親とも等しく氏を同じくすることによる利益を享受しやすい」として、「子供の最善の利益」を重視している。

最高裁判決はまた、「同一の氏(姓)を称することにより家族という一つの集団を構成する一員であることを実感することに意議を見出す考えも理解できる」「夫婦別姓論者の不利益は『通称の使用』が広まることにより、緩和されうる」としている。つまり、家族内でも「同一の姓」を「名乗る」ことに意味があると認めており、第5次基本計画案は客観的な記述になっていない。また、稲田朋美氏の「婚前氏続称制度」案のように、単に戸籍に「同一性」を記載しておけばよい、というものではない。

第四に、第5次基本計画案に多大な影響を与えたと思われるのは、47都道府県「選択的夫婦別姓」意識調査(早大法学部・棚村政行研究室、選択的夫婦別姓・全国陳情アクション合同調査)の結果である。11月18日に公表され、NHKニュースや朝日新聞などで大々的に報じられた。

公表された調査結果によれば、選択的夫婦別姓に「賛成」は70.6%、「反対」は14.4%というが、⑴自分は夫婦同姓がよい。他の夫婦も同姓であるべきだ ⑵自分は夫婦同姓がよいが、他の夫婦は別姓でも構わない ⑶自分は夫婦別姓が選べるとよい。他の夫婦は同姓でも別姓でも構わない、という設問の内、⑴が選択的夫婦別姓に「反対」、⑵と⑶が「賛成」に分類されている。

「別姓賛成」と決めつける無理

だが、⑵は「自分は夫婦同姓がよい」と答えているのだから、「自分は夫婦同姓がよい」と答えている割合は過半数を超えている点に注目する必要がある。また、「別姓が選べないために結婚をあきらめたことや、事実婚にしたことがある」は極めて少数(1.3%)で、20代女性が最も少なく、「20代、30代の女性から、結婚に伴う氏の変更に抵抗を感じるとの意見が寄せられている」「夫婦同姓が結婚の障害になっている」との主張は根拠薄弱であることを立証している。

世界人権宣言、国際人権規約をはじめ、世界の各国の憲法は「家族の保護」をうたっており、ベアテ・シロタ・ゴードンが起草した憲法第二次草案にも、「家庭は人類社会の基礎」と明記されていたが、自明であるとして削除された事実も忘れてはならない。(ベアテ草案の詳細については、拙稿「ベアテ・シロタ憲法草案についての―考察⑴―憲法第24条の制定過程を中心に―」『歴史認識問題研究』第6号、令和2年、を参照してほしい。別サイト)