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2021.01.18 (月) 印刷する

米新政権は「インド・太平洋」の枠組みを踏襲せよ 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 米トランプ政権は12日、2018年2月15日付で作成した「インド太平洋における戦略的枠組みに関する覚書」を開示した。20日にバイデン新政権が発足する直前のタイミングで敢えて本文書を開示した狙いについて、ロバート・オブライエン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は「米国民や同盟諸国に、米国が今後も長き将来にわたってインド太平洋を自由で開かれた地域にするため永続的に取り組んでいくことを知ってもらうためだ」と説明した。

開示された文書では「同盟とパートナーシップ」の項目に、「この地域の我々のコミットメントを重視し、自由で開かれたインド太平洋のために分かち合うビジョンを強調する」と明記している。

ところがバイデン氏は大統領就任前から「安全で繁栄するインド太平洋」のように「自由で開かれたインド太平洋」から明らかに言い方を変えるようになっている。トランプ政権が文書公開に踏み切った背景には、このことに対する懸念があるように思われる。

「海軍力増強」の後退を懸念

中国に関する記述部分では「信頼できる戦闘能力のある米軍事プレゼンス強化」と、謳い「(日本から台湾、フィリピンに至る)第一列島線内の紛争で中国の海空支配維持を拒否し、第一列島線の国家を防衛し、第一列島線の外側の全ての領域で支配する」としている。

しかし、過去10年に建造された水上艦艇数は<下図>の通り、圧倒的に中国が米国を上回っている。トランプ政権は355隻艦隊を標榜して海軍力の増強に努めてきたが、バイデン次期政権では、伝統的に国内問題に予算を充当する民主党政権の通弊で、その努力が継承される可能性は低い。今回の内部文書開示の目的には、そうした傾向に対する警鐘の意味もあるようだ。

QUAD枠組み維持も求める

インドと南アジアに関する部分では「インドを主要防衛パートナーとしてのステータスを強化」としている。さらにインドが東アジアとの関係強化と経済連携を目指す「アクト・イースト」政策を支援し、米国、日本、オーストラリアの自由で開かれたインド太平洋ビジョンとの両立を強調すると書かれている。

日米豪印による、いわゆるQUADの戦略的枠組みを引き続き強化してもらいたいという思惑も開示の背景として読み取れる。