公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2021.03.29 (月) 印刷する

頑なな専守防衛のツケが回って来た 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 3月25日に北朝鮮が日本海に発射した弾道ミサイルは、本年1月14日夜の軍事パレードに初めて登場したロシア製イスカンデルの改良型ミサイルと思われる。この時期、発射に踏み切った理由を色々と政治的に推測する向きがあるが、軍事的には、開発した兵器の発射試験を早く行って、その作動をテストしたかったからと見るのが普通だ。

最善策は発射前後の迎撃

25日夜のBS-TBS「報道1930」でコメンテーターの堤伸輔氏は「米韓が単にミサイルと言っているのに日本だけ弾道ミサイルと言っている」として日本が脅威を煽っているかのような言い方をしていたが、26日の米政府発表では明確に弾道ミサイルで国連決議違反としている。

本ミサイルは飛翔距離が500キロ前後であったことから、日本本土に直接脅威を与えないとする意見もあるが、日本海にミサイル防衛で展開する海自イージス艦あるいは将来、イージス・アショア・システムを搭載して弾道ミサイル防衛任務に従事する艦にとっては脅威になる。イスカンデル改良型は低空を変則な軌道で滑空することから、高高度で迎撃するイージス艦搭載のSM-3ミサイルでは迎撃できない。

また北朝鮮国営の朝鮮中央通信によれば、今回の発射の弾頭は2.5トンという。核弾頭が搭載できる可能性もあり、その場合には日本本土にも大きな脅威となる。岸信夫防衛大臣は26日の記者会見で「国民の安全・安心の確保に万全を期したい」と述べたが、今回のようなミサイルを迎撃するには発射前、あるいは直後に撃ち落とす事が最良の策である。

ミサイルすら自主開発困難

このような北朝鮮や中国の弾道ミサイルの脅威に対抗して、米国が昨年、国防権限法で打ち立てたのが太平洋抑止構想(Pacific Deterrence Initiative-PDI-)で、日本から台湾を経てフィリピンに至る第一列島線上に対象国を攻撃できるミサイルを配備する構想である。

日本の何処に配備するかについて、現在米国は調査中であるが、配備要求が公になった場合、当該基地周辺では配備反対運動が起こることが予想される。

本来、日本の抑止力を向上させるためには日本のミサイルを配備すべきである。それができない理由は、これまで専守防衛を墨守してきために、対象国に打ち込めるミサイルを日本が自主開発してこなかったからである。

陸上自衛隊の88式あるいは12式対艦ミサイルは射程が百数十キロに過ぎず、中国や北朝鮮には届かない。昨今の北朝鮮弾道ミサイルの長射程化や中国の弾道ミサイルの増勢に伴って、ようやく12式地対艦ミサイルの射程を数百キロまで伸長させる閣議決定を昨年末に行ったばかりだ。他の高速滑空弾や極超音速誘導弾も研究に着手したばかりで、いずれも実用化には約5年かかる。にも拘らず立憲民主党の安住淳国会対策委員長などは未だに「専守防衛から逸脱する」などと言っている。このような政党に日本の安全保障を委ねる訳にはいかない。