8月10日韓国のMBCテレビが国家基本問題研究所の名誉を毀損する事実無根のひどい内容を調査報道番組として放映した。
それに対して国基研は11日に抗議声明を公表しているが、同じ11日に、韓国保守派リーダーの趙甲済氏が主宰するネットメディア「趙甲済ドットコム」(조갑제닷컴)もMBC報道について「不当取引を立証する客観的な証拠は提示されず、事実上「伝聞話」だけに終わった」と厳しく批判する会員コラムを掲載した。
北のスパイ事件から目そらす狙い
今回のMBCの放送については、韓国情報機関の国家情報院(国情院)の長期にわたる緻密な捜査の結果、最近発覚した忠清北道の北朝鮮スパイ組織事件から目をそらす目的で急造されたものではないかという見方がある。コラムは次のように疑問を投げかけている。
「陰謀論のようなことには関心がない。だが、今回の『PD(プロデューサー)手帳』(番組名)の放送タイミングは微妙だ。重要軍事装備の導入への反対キャンペーンを展開したスパイ容疑者検挙の余波が続く中、もしかして視点を「反日」へ模様替えするつもりではなかったのか。スパイ容疑者に対する国情院内部の捜査が大詰めを迎えている中で、何かそれに水をかける問題を探していたところ、突然見つけたのが、もしかしたら今回の件ではないか」「このような疑いは合理的だ。なぜなら、PD手帳の今回の放送は、一から十まで内容があまりにも大雑把で実がないためだ」
日本ではほとんど報じられていないが、8月初め、国情院と韓国警察は、北朝鮮の指令で韓国軍が米国からステルス戦闘機を導入することに反対する運動をしていた地下組織「自主統一忠北同志会」のメンバー4人を摘発した。
驚くべきことに4人は、2017年の大統領選挙で文在寅候補を支持する「労働特補」に任命され、選挙運動に加わっていた。彼らは2万ドルの工作資金を北朝鮮工作機関から受け取っており、金正恩への忠誠を誓う血書を北朝鮮に送っていた。
信憑性を欠く元国情院職員の証言
コラムが疑うように、番組は、国情院が日韓歴史問題で韓国に反論する日本保守派を裏で支援していたという事実とは異なるストーリーを一方的に報じ、韓国内で国情院の評判を低下させた。
番組が長々と使ったのが元国情院職員の証言だが、彼はなんらかの理由で国情院を解雇され、それを不満として地位回復の裁判を起こしている。つまり、国情院に恨みを持つ人間だ。一方、韓国の良識ある関係者は、MBCは従北左派に牛耳られていると口をそろえる。したがって、今回の報道はMBCがスパイ事件を摘発した国情院を攻撃するため、国情院に恨みを持つ元職員を利用して作ったのではないか―とするコラムの主張は十分に論理的根拠を備えている。
コラム全文を以下、日本語に訳して紹介する。
MBCの報道番組「PD手帳」、国家情報院と日本団体の間で不当な取引が存在すると扇動
バンドビルダー(会員)2021-08-11
MBCの報道番組「PD手帳」が8月10日、「不当取引-国情院と日本の極右」というタイトルの放送を行った。不当取引を立証する客観的な証拠は提示されず、事実上「伝聞」だけで終始した。 PD手帳が、国情院と日本の保守団体との間で不当な取引があったことの根拠に掲げたのは、次のような情報提供者の証言が唯一だ。
「(国情院が洪熒氏のように)国情院を退職して日本の右翼団体に入った陸士出身の先輩たちに工作資金を与えたので、それを工作資金として活動を始めた。工作資金は2種類ある。毎月数百万ウォンずつ給料のように支給されるものと工作事業費として支給されるものがあるが、工作事業費は金額が大きかったと記憶している」
このような証言に続き、PD手帳はモザイク処理された元国情院高官という人物を登場させ、「口座振替は絶対になく、現金で支払う」というコメントを紹介し、現金がやり取りされる演出場面を写した。そしてすぐに「退職した洪熒氏に、国情院が工作金まで支援して任せたのは、2012年の大統領選挙に関する世論工作だったのです」と言及した。
すなわち、情報提供者の証言、そして、情報提供者の証言と直接関連がなさそうに見える情報機関経費支出の慣行(現金原則)関連の証言を互いにつなぎ合わせた後、「退職した洪熒氏に国情院が工作金を支援」と断定した。
調査報道番組の生命は、「客観的証拠の確保」だ。ところがPD手帳は、国情院と日本の団体間の不当な取引を立証するだけの客観的な証拠を確保できなかったので、「情報機関はもともと現金で取引する」ということを理由に、「証拠提示」の部分を削除してそのままごまかしたのだ。
情報提供者がその情報を提供した時点が2021 年1 月だから、7か月間にわたって調査したことになる。そうであれば、7カ月の間に洪熒氏が国情院関係者から月給式の工作費、もしくは巨額の工作事業費を現金で受け取る現場、もしくは接触状況を示す写真1枚でも出してしかるべきで、それこそが最低限の視聴者に対する礼儀ではないか。
視聴者を無視する態度は放送の開始部分から目立った。番組では、独島(日本名・竹島)関連団体の代表(崔ジェイク)と慰安婦関連団体の代表(尹美香)などが日本に入国するたびに、日本保守団体がどのように知ったのか待ち伏せし、進路を妨害するなど乱暴を働いたとした。そしてこのようになった原因は、関連団体(独島、慰安婦)情報を国情院が事前に日本の公安側に渡し、日本公安はこの情報を日本の保守団体に伝えたからだと説明した。
2017年2月8日、韓国メディアでは次のような内容が報じられた。
日本の「竹島の日」廃止を促すため、韓国の独島関連団体(代表:崔ジェイク、60歳)が抗議訪問団を結成して日本現地に出国する。日本の島根県が今月22日に開催する第12回竹島の日の記念行事を糾弾するためだと、独島守護全国連帯は7日明らかにした。彼らは2006年から毎年、日本の現地を訪れて抗議行事を行ってきている。彼らは22日午前10時に島根県庁舎前で独島が韓国固有の領土であることを知らせる記者会見を開き、午前11時には県民会館広場で日本政府の独島強奪蛮行の中止を要求する集会を開く計画だ。抗議訪問団は、崔代表をはじめソ·ヒョンリョル副代表(60)、ユ·ホンレ報道官(60)、随行員1人の4人だ
2019年9月28日には「独島は韓国の領土、韓国の市民団体が日本首相官邸、防衛省への抗議訪問を予告」(世界日報)というタイトルで次のように報道された。
…崔ジェイク代表は「今回の訪問は独島守護連帯の16回目の日本抗議訪問となる。36年間の血の歴史を記憶する韓国国民がいる限り、日本政府の侵略の歴史は決して消えない」と声を高めた。この団体は来る30日、首相官邸に抗議文を伝達し、防衛省前で防衛白書糾弾声明を発表する予定だ
この団体は日本へ出発するずっと前からマスコミを通じて大々的に行動日程などを広報している。到着日はもちろん、参加者の氏名、年齢まですべて分かる。日本内の動線を十分に推察することができる行事スケジュール(島根県、総理官邸、防衛省への抗議訪問など)まで、とても親切に紹介された。毎年こういうやりかたで大々的な広報をしてから日本へ出発した。
2013年8月12日にはこのような報道があった。
…挺対協は慰安婦メモリアルデーである来る14日正午に日本、米国で「世界、日本軍慰安婦メモリアルデー」行事を開催する。これを通じて被害者の名誉と人権の回復、日本政府の謝罪と賠償を要求する計画だ…
日本で慰安婦メモリアルデーの行事を開催するとすれば、事前に開催場所も交渉しなければならず、日本內の各種団体などともあらかじめ連携しなければならない。一般人たちの参加まで期待するなら、事前広報は必須だ。そうであるなら、このようなやり方で世の中がすべて分かってしまうことを、日本の保守団体だけが知らないでいることなどあるだろうか。 国情院が普段から尹美香のような人物の動向に神経を尖らせているのは、彼女らの思想傾向のためであって、世界が知る彼女らの日本入国スケジュールや日本国内の動線のためではない。
情報提供者は、「全世界で北朝鮮に関する総合的で深みのある分析力を備えているのは我々だけ」と言及しながら、櫻井よしこ氏、西岡力氏ら保守団体(国基研)の主要人物に対する国情院の情報ブリーフィング(事前説明)が存在したと指摘した。そして、そのような国情院のブリーフィングのおかげで、その団体(国基研)の地位が高まったと主張した。
西岡力氏ら日本の保守人士は「日本人拉致問題」に大きな関心を持っている。したがって情報提供者の証言どおり、もし国情院がブリーフィングをしたことが事実だとしても、それは「拉致被害者問題」に関連する北朝鮮情報の共有だったと推定できる。それならば、同じ自由陣営の隣国の政治指導者(首相)の最側近の人たちに人道主義的レベルで「拉致被害者関連の北朝鮮情報」を共有したことになるが、それがそれほど不適切で、容認できないことになるのか。
国情院の「北朝鮮関連情報ブリーフィング」は、必要な時には日本だけでなく米国など自由陣営の主要人物に対しても、いくらでも実施できる。日本にだけ絶対いけないというなら、これは非正常であり独善だ。
なお、北朝鮮関連の情報だとしても韓国だけがよく知っていると考えるのであれば、それは錯覚である。情報は「ギブアンドテイク」(Give and take)だ。日本から得る助けも多い。 大韓航空機撃墜事件や爆破事件の当時、日本が提供した重要情報のおかげで、ソ連の蛮行が明らかになり、金賢姫の身柄確保を通じて北朝鮮の蛮行を立証できた。国基研の地位が高まったのは、国情院が行ったブリーフィングのおかげだという情報提供者の証言は恣意的で主観的だ。その団体の関係者は、日本国内の最高権力者の核心的な側近として、以前からその地位は高かった。
日本で「統一日報社」関連業務を担当している洪熒氏について、PD手帳は「国基研の核心メンバー」というように紹介した。洪熒氏のその研究所での地位は「客員研究員」だ。核心メンバーという人の地位が「企画委員」でもなく「先任研究員」でも「責任研究員」でもなく「客員研究員」であることをどのように理解すべきだろうか。PD手帳が核心メンバーと規定すれば、そのまま核心メンバーになるのか。
国基研の企画委員である西岡力氏が書いた本についてPD手帳は、「慰安婦と徴用に関する歴史歪曲をした本」と断定した。ところで、本の内容が歴史歪曲なのかどうかPD手帳がどうやって判断するのか。読んでみたのか。歪曲だと断定するなら、どうして歪曲なのか簡単にでも理由を明らかにすべきだ。歪曲かどうかを立証する能力がないのなら、ただ「慰安婦と徴用に関する本」と紹介しなければならなかった。
国情院の海外工作員出身だという情報提供者は、国情院在職時に監査を受けたという。 しかし、どんな理由で監査を受けたのかは明らかにしなかった。ただ苦しい目にあったとだけ説明された。情報提供者は日本で勤務したという。ところが耳を疑わせるところがあった。PD手帳は、情報提供者についてこのように紹介した。
「彼は日本で対共業務を遂行する一方…、在住の韓国人とともに、『歴史を正しく知らせる』運動を行いもした」
海外に派遣された情報機関の要員が、「歴史立て直し」のような、仕事と全く関係のない活動を民間人とともに展開するということがあり得るのか。世の中のどこの国の情報機関要員がそのようなやり方で任務を遂行するのか。こんな情報提供者の情報をどこまで信じられるというのか。
陰謀論のようなことには関心がない。だが、今回のPD手帳の放送タイミングは微妙だ。重要軍事装備導入への反対キャンペーンを展開したスパイ容疑者検挙の余波が続く中、もしかして「反日」へ模様替えするつもりではなかったのか。スパイ容疑者に対する国情院内部の捜査が大詰めを迎えている状況で、何かそれに水をかける問題を探していたところ、突然見つけたのが、もしかしたら今回の件ではないか。
このような疑いは合理的だ。 なぜなら、一から十までPD手帳の今回の放送は、内容があまりにも大雑把で実がないためだ。「不当取引―国情院と日本極右」というタイトルの今回のPD手帳は、そのために論理と物証をすべてスルーして反日感情にだけ訴えた扇動放送に他ならない。一言で「伝聞」レベルをぐるぐる回った放送だった。PD手帳は狂牛病報道の伝統を持つ。誰かから必ずそのような指摘が出るはずだ。