公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2021.08.31 (火) 印刷する

アフガンは依然テロ組織の温床に 冨山泰(国基研企画委員兼研究員)

8月26日、アフガニスタンからの脱出を希望する民間人でごった返す首都カブールの国際空港付近で起きた自爆テロで、警備の米兵13人を含む200人近くが死亡した事件は、アフガニスタンが依然として国際テロ組織の温床であることを立証したもので、アフガニスタンからの米軍撤退の正当性に重大な疑問を投じた。内外の批判にもかかわらず米軍撤退を強行したバイデン政権にとって、テロ攻撃の発生はアフガニスタンの旧支配勢力タリバンによる15日のカブール制圧に続く政治的な大打撃となった。

イスラム過激派同士で敵対

自爆テロを実行したのは、「イスラム国」(ISまたはISIS)傘下の組織「イスラム国ホラサン州」(ISIS-K)だ。ホラサン(Khorasan)とはアフガニスタン、イラン、パキスタン、中央アジアにまたがる地域を指す歴史的な名称である。

同じイスラム過激派でも、ISIS-Kはタリバンや、2001年に米同時多発テロを起こしたアルカーイダと敵対関係にある。タリバンはアフガニスタンに厳格なシャリア(イスラム法)を適用し、神権国家「アフガニスタン・イスラム首長国」の建設を目指す。これに対してISIS-Kは、母体のISがイラクとシリアにまたがる広大な地域に樹立を宣言したカリフ制国家にアフガニスタンの一部を編入しようとする。つまり、アフガニスタン国家の在り方をめぐり、タリバンとISIS-Kの政治目標は相いれない。

アルカーイダは新国家の創設よりも、米国を中東から排除することを主目標とする。米同時多発テロのような派手な攻撃は、米国のイスラム世界からの撤収を促す誘因になると位置付けられた。もともとISの主敵はカリフ制国家建設の障害となるイスラム教他派だった。しかし、米軍などが内戦に介入すると、支配地域に入り込む欧米や日本の民間人も惨殺し、世界中のひんしゅくを買った。

タリバン勝利でテロ頻発も

バイデン大統領は米軍のアフガニスタン撤退を正当化する理由として、アルカーイダなどテロ組織がアフガニスタンを対米攻撃の拠点としてもはや利用できなくなったことを挙げた。確かにアルカーイダは、米国に直ちに脅威を及ぼす力はない。タリバンもアフガニスタンを対米テロ攻撃に利用させないことを約束した。しかし、アルカーイダはタリバンとの関係を保っており、仮にアフガニスタン国内に「聖域」を与えられれば、半年~2年で再建できるとの見方もある。

カブール空港で自爆テロを起こしたISIS-Kも、遠隔地でテロ攻撃を仕掛ける力は今のところなさそうだ。タリバンはアフガニスタン国家の存在を脅かすISIS-Kの壊滅を試みるだろう。しかし、タリバンには国造りで優先しなければならない課題も多く、どこまでISIS-Kを追い詰められるか、不明な部分もある。

さらに、アフガニスタンでのタリバンの勝利は周辺地域のイスラム武装勢力を勇気づけ、これら勢力が地元でテロ攻撃を仕掛けたり、アフガニスタンに移動してきたりする可能性もある。

バイデン大統領は、米軍をアフガニスタンから引き揚げることで、軍事資源を戦略的に重要な中国との対立に集中できると説明してきた。12月9~10日にはオンラインで「民主主義サミット」を開き、民主主義諸国等を結集して、中国をはじめとする専制主義国と対抗する態勢を整える予定を立てている。しかし、今後3カ月間、世界各地でイスラム過激派によるテロ攻撃が頻発するようなら、民主主義サミットの中心議題は対中牽制ではなく、「テロとの戦い」になりかねない。