韓国政府は8月31日、国防費を前年比4.5%増の55兆2277億ウォン(約5兆3000億円)とする2022年(暦年が会計年度)の政府予算案を公表した。日本の21年度の防衛費が5兆3422億円だから、ほぼ並んだことになる。物価を考慮した購買力平価で見ると、すでに18年の時点で日韓の防衛費は逆転している。韓国は今後も大幅に国防費を増額する計画なので、23年にも実額で日本を上回る見通しだ。
米軍依存からの脱却目指す
韓国は国防費に国内総生産(GDP)の2%を超える支出しており、一人当たりでは韓国が日本の約2.4倍だ。特に文在寅政権になって国防費の伸びが著しい。文在寅政権下の5年(22年は政府案)の伸びは37%で、朴槿恵政権(弾劾のため4年)の17%、李明博政権の29%だった。
北朝鮮に対する融和的な姿勢をとる文在寅政権が国防費を大幅に増やしているのは、米軍依存から脱する「自主国防」を目指すからだ。文在寅政権と同じ親北左派だった盧武鉉政権では、なんと53%の伸びを見せた。
韓国では有事の際、米軍司令官が米韓合同司令部の指揮を執る作戦統帥権を握っているが、盧武鉉政権は、その返還を求めた。それに対して米国は韓国軍の防衛体制を点検して、ふさわしいと判断できれば返還すると回答したので、盧武鉉政権はすさまじく国防予算を増やした。
その後、米韓同盟を重視する李明博、朴槿恵政権は返還期日の延期を求め続けたが、文在寅政権になって早期の返還を求める姿勢が復活した。
「周辺国予算」の目的とは
問題は増額された韓国の国防費の使途である。文在寅政権下の2020年国防予算には、北朝鮮とは別に周辺国に対抗する戦力を確保するための項目が別途用意されたという。それを政府部内では非公式に「北東アジア予算」「周辺国予算」と呼んでいるという。
2019年9月22日付の韓国紙中央日報によると、この予算の目的について韓国政府関係者は「中国や日本が敵国という意味ではない。ただ、今後両国との紛争が起きかねないため、あらかじめ準備しようということ」と驚くべき発言をしたという。
韓国海軍が、軽空母の建造を計画しており、3000トン級の潜水艦を8月に実戦配備し、非公開でSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の発射実験を行ったことなどは、「周辺国」に対抗する戦力の一環とも見なされる。
文在寅政権は発足直後の2017年10月に中国に対して、①韓国内に終末高高度防衛ミサイル(THAAD)を追加配備しない②米国のミサイル防衛網(MD)に加わらない③日米との軍事同盟を構築しない―という「3NO原則」を約束した。
日本を敵と見なし得る表現
また、今年2月に公表された「2020国防白書」では、北朝鮮に対して前回に続き「敵」という位置づけを落とし、「わが軍は韓国の主権、国土、国民、財産を脅かし、侵害する勢力をわれわれの敵と見なす」として、日本をも敵と見なし得る表現を使った。中国に対しては批判を一切行わず、「戦略的協力同伴者関係」とし、国防協力が順調に進んでいることが強調された。日本については前回の「同伴者」という表現を「隣国」と一ランク落とし、「日本の歴史歪曲、竹島に対する不当な領有権主張、懸案問題での一方的かつ恣意的な措置に対しては、今後も断固厳しく対処する」と書いた。
来年3月に実施される大統領選挙で、現在の左派政権側が再度勝利すれば、次期大統領の任期5年の間に作戦統帥権返還と米韓連合司令部解体が実現し、米韓同盟が弱体化する可能性が高まる。そのとき、日本よりも多額の国防予算を支出する反日国家の軍隊が、われわれの目の前に現れる危険性があるのだ。そのことを直視して、わが国も大幅な防衛費増額と憲法改正に早急に取り組むべきだ。