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2021.10.25 (月) 印刷する

温暖化防止でも再エネの力不足は明らかだ 奈良林直(東京工業大学特任教授)

世界的に原油や天然ガス、石炭のエネルギー価格が高騰を始めている中、「原子力発電所の進歩に関する国際会議」(ICAPP)が10月16日~20日、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビで開催され、筆者も総会での講演を頼まれ、オンラインで参加した。

この会議は、世界中の原子力コミュニティーのリーダーたちが、新しい原子力発電の展開と将来の方向性やニーズについて議論するフォーラムだが、すでに再生可能エネルギーの力不足が広く認識されているところから、今回は地球温暖化防止に対する原子力の活用が冒頭から論じられた。

2050年までに二酸化炭素(CO2)の排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」については、日本を含めて多くの国が表明しているが、その達成には小型モジュール炉(SMR)と呼ばれる新たな原子炉を含めて約3000基の原発建設が必要との見通しが開会宣言に続くセッションでアナウンスされた。低廉で安定な電力を供給できる原子力の役割は、今後世界的に益々重要になるであろう。

産油国が原発を運転する時代

筆者は2013年から2015年まで、今回会場となったアブダビの王立カリファ大学で原子力教育パネル(NPAP)のボードメンバーを務めたことがある。このため、同大原子力工学科の教授やUAEの規制当局(FANR)、電力会社(ENEC)に知人は多い。

産油国でありながらUAEは原発の導入を進めている。将来を見据えた動きとして注目に値する。2009年、日本は原発プラントの売り込みで韓国に敗退したが、筆者はボードメンバーとして福島第一原発事故の原因と安全性向上対策を説明し、米マサチューセッツ工科大学(MIT)の教授らとともに、カリキュラムの整備や博士課程の学生への説明にも努めた。

韓国製の140万キロワットの加圧水型原子炉(PWR)4基を建設中のバカラ発電所では、2020年2月の1号機に続き、2021年3月には2号機にも60年有効な運転許可が発給された。この間、運転員の習熟訓練のため、国際原子力機関(IAEA)や世界原子力発電事業者協会(WANO)が厳しい起動前審査や安全評価を実施している。

世界の趨勢は原子力回帰

筆者はカリファ大学でのICAPPの講演では、わが国では、安全対策を実施した原発では炉心損傷頻度は1億分の1以下に低下していることや、東工大で開発中の負荷追従が可能な中型モジュール炉の紹介などを行った。

英国のロールスロイスからはSMRの開発に参入して風力発電の不安定さをカバーする研究を続けていることが明らかにされた。MITからは、原発の電気で水を電気分解し、バイオマスに水素を添加してバイオ燃料を作る計画が発表された。これらについてパネル討論を行ったが、結局は、太陽光や風力の再エネについては不安定さを克服することは困難であると結論付けられ、原子力が発電のみならず、水素の供給源として、今後大きな役割を果たすことが認識された。

しかし、我が国が輸入する原油を水素製造に置き換えると原発100基分のエネルギーが必要になるとの石油会社の試算もある。「再エネ最優先」の第6次エネルギー基本計画は早晩見直しが避けられまい。世界的に原油や天然ガス、石炭の価格が高騰を始めており、低廉で安定な電力を供給できる原子力の役割は、今後益々、世界的に重要になるであろう。