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2021.12.06 (月) 印刷する

人民解放軍は宇宙、サイバー、電磁、心理一体で攻撃 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

11月26日に防衛研究所が『中国安全保障レポート』を公表した。この中で、筆者が特に注目したのは図2-6(37頁)に示された人民解放軍の戦略支援軍編成である。これは2018年に、米国防大学が出版した『China’s Strategic Support Force: A Force for a New Era(中国の戦略支援軍:新しい時代の軍)』に示された編成図の和訳であるが、中国の戦略支援軍が宇宙のみならずサイバー、電子戦、そして心理戦を一括指揮していることである。

我が国安全保障の神経である指揮・通信・情報系統を破壊するには、偵察・通信・航法等の衛星活動の妨害と、サイバーや電子機器を無力化させる電磁波パルス(EMP)攻撃、そして偽情報による心理戦を一斉にかければ極めて効果的である。それを一元的に統括しているのが戦略支援軍であるという意味で末恐ろしさを感じる。

情報戦と火力攻撃の一体化も

12月1日のThe Epoch Timesは、2019年に衛星画像で中国が秘密のEMP試験施設を持っていることが暴露され、中国による奇襲EMP攻撃が北京の電撃戦略であることを報じている。最近開発された極超音速兵器は変則軌道で高速飛行するものの、低空を飛翔するためEMP攻撃には適していないとされるが、2発目はEMP攻撃に適した高度で発射される可能性があると伝えている。

また一昨年、筆者もパネリストとして参加したソウルでの国際会議で、元米中央情報局(CIA)長官のジェームス・ウルジー氏は、EMPの脅威についてのみ講演した。

2005年以降の中国の軍事ドクトリンには「一体作戦」の標語が頻繁に出てくる。この意味は、軍・民の一体化と、陸・海・空・宇宙・サイバーをも含む電磁の5領域の一体化という二つがある。

さらに、人民解放軍の国防情報学院(National Defense Information Academy)のモットーは「網電一体戦」、即ちサイバー・ネットワーク攻撃と電子戦の一体化や「信息火力一体戦」、即ち情報戦と火力攻撃を一体として戦うことである。

偽情報で相手の混乱狙う

仮に中国との武力紛争中に、自衛隊の最高指揮官である総理大臣が「自衛隊員よ!武器を置いて白旗を掲げなさい」と命令する偽のメッセージがサイバー空間で流されたら、戦っている自衛隊員の心理は大きく動揺するであろう。

5年前、中国国防部の報道官は「宮古海峡上空を飛行中の人民解放軍機に対し、航空自衛隊のF-15、2機が、フレアを発射した。こうした行為は極めて危険でプロフェッショナルではない」と、空自F-15の写真を掲げた。しかし、その機番号のF-15は当日、飛行任務に就いていなかったことを、当時の稲田朋美防衛大臣から直接聞いた。

中国国防部の報道は英語でも国際的に発信される。この報道を真に受けた世界の人達は、自衛隊を野蛮な集団だとの印象を持ったであろう。こうした自衛隊への国際的信頼失墜を謀ることが中国の心理戦の狙いである。

こうした偽情報による心理戦とサイバー、電磁波戦が一元指揮の下、かつ宇宙での戦いと共に我々を襲ってくるという認識を持たなければならない。こうした背景から自衛隊の新入隊員教育では「情報戦」を必須科目として取り入れ始めた。