公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2021.12.14 (火) 印刷する

石炭ガス化発電は水素発電だ 奈良林直(東京工業大学特任教授)

英グラスゴーで開催された国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)では、「脱石炭」が議論の焦点になり、40カ国余りが合意した。しかし、現在、アジア地域で建設中の石炭火力発電所は200カ所に迫り、インドでは28カ所、中国では95カ所、インドネシアでは23カ所に上る。これら新規の石炭火力発電所は、今後何十年にもわたりCO2を排出し続ける。これを先進国の論理で否定するのは不可能で、このままではCO2の削減は困難だ。しかし、わが国には、高性能な火力発電所や独自開発の石炭ガス化発電がある。これを使わない手はない。

タイミング良く、広島県竹原市の電源開発竹原火力発電所と瀬戸内海の大崎上島(広島県)にある「大崎クールジェン」の石炭ガス化発電施設を見学する機会に恵まれた。前者は従来の石炭火力の平均値よりも約20%もCO2排出量が少ない超々臨界圧石炭火力発電であり、後者は電源開発と中国電力が国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトとして開発した石炭ガス化複合発電(IGCC)である。

実質的な石炭水素化発電

筆者は、IGCCについて、石炭と水を反応させてつくるガスをタービンで燃焼させるものと思い込んでいたが、ガス化で排熱回収を行うとともに酸素を多く供給して(シフト反応)で水素の割合を55%まで高める、実質的な石炭水素化発電と分かった。

しかも、残りの40%のCO2は、燃焼前に物理的に分離できるので、これを貯留(CCS)すれば、水素の比率を85%にまで高め、残りは窒素と4%まで減らしたCO2になる(上図)。加圧状態のCO2を含む炭酸水を減圧すれば、「シュワー」と炭酸ガスが出るのと同様に、ガスタービンのバーナーで燃焼する前にCO2を容易に分離・回収できる。ほとんどCO2を排出しない火力発電所が実現するのである。

このCO2を地下に貯留するだけでは早晩限界が来るので、CO2ハイドレード(気体を含むシャーベット状の物質)にして深海に貯留するなどの方法も開発する必要がある。電力中央研究所では、CO2の水和反応によりCO2ハイドレードの生成研究が実施されている。

岸田文雄首相は、アジアにおける脱炭素化のために、再生可能エネルギーによる電気分解で水素を製造し、さらにアンモニアを合成して火力発電所の燃料にする計画を進めており、第6次エネルギー基本計画に明記されている。

しかし、2030年までに水素やアンモニアが全エネルギーに占める割合はたかだか1%で、しかもこれらの燃料は高価だ。一方、IGCCのガス化炉で製造される水素のコストは再エネの電気分解で得られる水素の約4分の1に止まる。

CO2を取り除き貯留できれば、この水素は「ブルー水素」と呼ばれ、天然ガスから水素を製造するCO2を発生する「グレー水素」よりも、環境負荷が少ないとされる。

世界の電力供給の35%を占める石炭火力のCO2排出量を20%削減すれば、世界全体の排出量を7%減らすことができる。

我が国のCO2の排出割合は世界の3.5%に過ぎない。これを46%減らしても、1.6%の削減にとどまる。それをはるかに上回る世界貢献ができる高性能の石炭火力発電技術の活用こそ、岸田首相のアジアにおけるリーダーシップの発揮となろう。しかも7%の排出削減の貢献は、COP26で合意されたようにその国の排出権※1の獲得となるので、わが国は巨大な排出権を手にすることができる。

小型原子炉でも期待される日本

さて、大崎上島に向かうフェリーの港がある竹原市(地図参照)には、J-Powerの高性能な竹原火力発電所がある。煙突からは灰色の煙も白い湯気も出さない。呉市にはかつて日本海軍の呉工場があり、戦艦大和の砲塔を製造していた巨大なピットがある。この呉工場は戦後民間に払い下げられ造船所となった。

ピットでは、大崎クールジェンのガス化炉や原子炉圧力容器などの巨大な鋼鉄の製品が建造されている。江田島市の海上自衛隊の基地や海上自衛隊幹部候補生学校もあり、様々な産業活動により活気に満ちあふれている。

COP26と時を同じくしてフランスが欧州型PWR(EPR)を6基建設すると表明した。英国やポーランドにも輸出する計画という。一方、GE日立はカナダでの小型モジュール炉(BWRX300)建設を受注したと発表した。これらの原子力発電所の輸出では、我が国の原子力発電メーカーの貢献が期待される。高性能火力発電所や、安全性を極限まで高めた原子力発電所の技術は、我が国の地球温暖化防止に向けた世界貢献になる。瀬戸内海に浮かぶ大崎上島の発電所には水素製造とCO2削減の高性能技術が凝縮している。戦艦大和の技術は現代にも生きており、未来の地球環境保全にも貢献しているのだ。


※1EUの排出権取引で使われる用語で、排出できる枠を取引する排出枠取引、排出基準値の超過分を補う排出クレジットの総称。COP26で、海外の温室効果ガスの削減に貢献した量を、自国の排出量から削減することが合意された。