インドは、国連人権理事会におけるロシアの理事国資格を停止した4月7日の国連総会決議に棄権した。インドの国連大使はこの投票行動について説明した際、ウクライナでの民間人殺害を強く非難し、人権尊重に対するインドの揺るぎない決意を改めて強調した。インドの棄権をもって、ロシアのウクライナ侵攻を支持していると解釈してはならない。
これまでのところインドはウクライナ情勢に関する国連決議に全て棄権してきたが、暴力の停止、国家主権と領土保全の尊重、国連憲章の諸原則順守を主張することでは一貫している。インドの態度で重要な点は、当事国が対話と外交を通じて意見対立を解決すべきだということである。当事国の一方(つまりロシア)を名指し、恥をかかせることは、問題の解決に役立たない。
ロシアを批判できない理由
西側諸国の期待に反し、インドがロシアを公然と批判できないのには、理由がある。第一に、ロシアはインドの長年の友好国であり、カシミール問題や1971年のバングラデシュ解放戦争といった極めて重要な問題でインドを支持してくれた。カシミール問題では、過去に旧ソ連が国連安保理決議に繰り返し拒否権を行使してくれた。旧ソ連の政治的、経済的、技術的支援はインドにとってかけがえのないものだった。
第二に、今日に至るまでインド軍はロシア製の軍装備と交換部品をかなり使っている。インドはロシアとの武器共同開発も幾つか進めており、その一つはインドがフィリピンに輸出を予定しているブラモス超音速巡航ミサイルだ。インドは米国、フランス、イスラエルからも武器を購入し、調達先を多様化してきたが、使用中のロシア製装備を取り換えることは数十年できない。
インドにとってウクライナ紛争は、自らが招いたものではない。世界的なエネルギー、農産物価格の上昇で、インド経済にも悪影響が及びつつある。ウクライナ紛争が壊滅的な世界戦争となり、核兵器が使われる可能性も無視できなくなってきた。当事国の一方の側に立つことは亀裂を深めるだけだ。ロシアへの制裁は効用に疑問がある。インドのモディ首相は、インドは平和の側に立つと言っている。
中国から気をそらすな
インドは対立する西側とロシアの双方と戦略的な関係を持ち、その両者の間に挟まって未曾有の外交的試練に直面していると言ってよい。今のところは国益にこだわり、外交と対話を通じた無分別な暴力の停止を主張している。国連でのインドの棄権をロシア支持と解釈することは誤りであり、インドと西側の緊密な関係を傷つける可能性がある。
西側の行動は首尾一貫していない。欧州諸国はロシアの天然ガスを買い続けているのに、他国にはロシアの原油を買うなと言う。過去において、西側諸国は多くの国の主権と領土保全を侵害してきた。イラクとリビアの例が思い浮かぶ。ウクライナ紛争で得をする国はない。暴力の早期停止と平和・安定の回復へ集団で声を上げるのがよい。これこそインドがやろうとしていることだ。
不幸なことに、ウクライナ危機により西側の関心はインド太平洋から欧州へそれつつある。クアッド(日米豪印の安全保障の枠組み)の参加国は引き続き中国に焦点を合わせるべきだ。日米豪は、インドが世界平和を強く支持する立場にあり、ウクライナ危機で有益な役割を果たせることに気付くべきだ。ウクライナ問題に関し、クアッド内でインドに圧力をかけることは、クアッドの高邁な目標に役立たないので、避けるべきだ。ウクライナ危機に関するインドの立場は微妙なニュアンスを含み、建設的なものである。11日にワシントンで行われるインドと米国の外交・防衛担当閣僚協議(2プラス2)は、さまざまな問題をはっきりさせ、両国の戦略的パートナー関係を一層強化するのに役立つだろう。