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国基研ろんだん

2022.08.29 (月) 印刷する

中露軍事協力は本物か 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

8月30日から開始される4年に1度のロシアのボストーク(東方の意)軍事演習を前に、中国共産党系の環球時報英語版であるグローバル・タイムズは25日、「中国が陸海空3軍を初めて派遣」との記事を掲載した。一見、中露の軍事協力が深化しているかのように見えるが、実態は疑わしい。

ウクライナ戦線にロシア軍は東部戦区の陸空軍をも派遣しているために、東部戦区の陸空軍は極めて希薄な状態になっている。従って、演習の主目的は海軍主体のオホーツク海要塞化になるであろう。中国人民解放軍海軍はロシアのオホーツク海要塞化に協力する気はなく、初めて海軍兵力を同演習に派遣する目的は自国が南シナ海を要塞化するための情報収集であるに違いない。

「便宜結婚」ではなく「好天下の結婚」

中露の協力を「便宜結婚」と評する日本の識者が多いが、米軍の友人は「好天下の結婚」すなわち「天気が悪くなればすぐ別れる関係」と評した。その程度の協力だと思われる。

4年前のボストーク演習に陸空軍を派遣した人民解放軍は、最新の兵器は温存し二線級の装備を出した。ロシアに手の内を明かさないのは、相手を信用していない証拠である。

昨年10月に中露艦艇合計10隻が津軽海峡を通過した姿にどう目した人も多いと思うが、不測の事態への対応が図られているのか甚だ疑問である。仮に西側が無人機や無人船で戦列を撹乱したら、最悪の場合、中露の同士討ちが始まるのではないか。

中露の軍事協力が見掛けほど内容が伴っていない根拠に、両国の士官学校交流が全く行われていないことが挙げられる。

士官学校交流はゼロ

筆者は防衛大学校国際教育研究官として世界各国の士官学校を視察した。中国では代表的士官学校である南京理工大学と大連艦艇学院以外に指揮学院も訪問したが、留学生は中南米やアフリカ諸国の出身者が多く、ロシアからは派遣されていなかった。

一方で、ロシア地上軍の代表的士官学校であるモスクワ高等指揮士官学校と軍事総合大学も訪問したが、外国からの学生は旧ソ連諸国、アフリカ、東南アジア諸国の一部からで、中国からは来ていなかった。

ロシアとしては、軍事的に格下の中国に何故留学生を送らなければならないかと思っているであろうし、中国は「我々は既に空母3隻を保有している。1隻も満足に運用できていないロシアから学ぶことなどない」と思っているに違いない。

これに対して日米の場合、学生のみならず教官をも交換している。お互いに相手の「やり方」を十分理解している幹部が共同演習時、相互に相手国の司令部や現場に派遣されているため、不測の事態があっても十分に対応できるのだ。(了)
 
 

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ロシア・ボストーク演習が開始

8月30日からロシア・ボストーク演習が開始される。中国海軍も参加予定。両者の関係は「便宜上の結婚」というより「好天時の結婚」、つまり環境が悪化すれば別れる。中露の外見上の関係に騙されないよう注意したい。