7月11日付産経新聞朝刊の「正論」欄に「日本再建に尽くした安倍元首相」と題して、以下の三つを第2次安倍政権の成果として挙げた。第一に、アベノミクスを推進したことだ。具体的にはデフレ脱却を掲げ、日本銀行による金融緩和を進めて雇用改善に努めたことだ。第二に、政権支持率が下がることを覚悟のうえ、特定秘密保護法や平和安全法制などを整備し、外交・安全保障とインテリジェンスの機能を強化したことだ。第三に、国家安全保障会議(NSC)を創設して国家安全保障戦略を策定し、自由で開かれたインド太平洋構想を推進したことだ。
金融緩和主導した黒田氏
第一の、雇用改善とデフレ脱却に向けて成果があったこのアベノミクスは、官邸の説明によれば、3本の矢で構成されている。第一の矢が「大胆な金融緩和」(金融緩和で流通するお金の量を増やし、デフレマインドを払拭)、第二の矢が「機動的な財政政策」(約10兆円の経済対策規模によって、政府が率先して需要を創出)、第三の矢が「民間投資を喚起する成長戦略」(規制緩和等によって、民間企業や個人が真の実力を発揮する社会へ)である。
特に景気回復において効果があったとされるのが、日本銀行による「大胆な金融緩和」であり、それを主導したのが第2次安倍政権の下で総裁に指名された黒田東彦氏だ。黒田総裁が主導した金融緩和政策は、流通するお金の量を増やしたり、金利を下げたりするもので、リフレ政策とも呼ばれる。リフレ政策をとると、景気は良くなると言われる。逆に流通するお金の量を減らしたり、金利を上げたりすることを金融引き締め政策と呼ぶ。
日本経済の1990年代以降の停滞は、デフレ不況によってもたらされたものであり,日本の相対的な地盤沈下につながってきたと受け止めた安倍晋三首相は、デフレ不況を打ち破る政策としてリフレ政策を唱える黒田総裁を任命したのだ。
日本銀行による金融政策を決定する政策委員会は、総裁、副総裁2人、審議委員6人の計9人で構成され、年8回開催する定例の金融政策決定会合では、当面の金融政策運営の方針などを決めている。この総裁、副総裁、審議委員は、時の内閣、つまり首相が指名し、国会で審議のうえ、任命されることになっている(国会同意人事)。第2次安倍政権と、それに続く菅政権の下では、審議委員もリフレ派と呼ばれる人を指名してきた。要は金融緩和を続けるというメッセージを発してきたわけだ。
非リフレ派起用なら景気に暗雲
ところが岸田政権は、金融緩和に積極的なリフレ派の審議委員、片岡剛士氏の後任に非リフレ派とされる高田創氏を指名した。そのため、岸田政権は来年4月に任期を迎える黒田総裁の後任に非リフレ派を据えるつもりではないのか、という疑念が生まれている。
非リフレ派の総裁の下、金融引き締めを実行すれば景気は悪化することになる。そして来年以降、景気が悪化するとなれば、企業経営者は従業員の給与引き上げを含む設備投資を控えることになる。逆に岸田政権がアベノミクスを継承し、引き続き金融緩和を続ける意向を示せば、企業経営者は、給与引き上げを含む設備投資に踏み切る動機が高まることになるだろう。
デフレ脱却、給与引き上げに向けて岸田政権がリフレ派を次期日銀総裁に指名するかどうか、大いに注目したいものである。(了)
第213回 日銀の総裁人事
安倍元総理の評価の一つはアベノミクス。その中で日銀による金融緩和で雇用状況が改善した。しかし次の日銀総裁に非リフレ派、金融緩和反対派がなれば金融緩和が怪しくなる。企業の設備投資に資する金融緩和を継続すべき。