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国基研ろんだん

2022.12.12 (月) 印刷する

海上自衛隊を海洋自衛隊に 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

12月7日、政府が航空自衛隊を航空宇宙自衛隊に改称する方針を固めたと報じられた。これに関連して、海上自衛隊も海洋自衛隊と改称すべきではないかと思う。その理由は、海上自衛隊が海の上だけを守っているのではなく、潜水艦の運用や機雷掃海などにより海面の下も担当しているので、現在の名称では実態にそぐわないという理由が一つ。もう一つは近年、海底ケーブルや海底パイプラインといったインフラの重要性が高まっているのに、これらの防護に海上自衛隊は関与していないという実態があるからである。

重要性増す海底インフラ

海底ケーブルが最初に攻撃を受けたのは、1898年の米西戦争であった。米海軍が、スペインとフィリピン及びキューバとの海底電話線を切断した。

1904~05年の日露戦争において日本が勝利できた要因の一つも、英国が全海洋に張り巡らせた海底ケーブルからの機密情報であった。

第1次世界大戦では、1914年にドイツ巡洋艦「エムデン」が中部太平洋の英領タバアラン島のケーブルを破壊した。逆に英国は東アジアにおけるドイツの海底ケーブルを切断した。1918年にはドイツの長距離潜水艦U-151がニューヨークとノバスコシア及びパナマ間の海底電話ケーブルを切断、同年U-156は米マサチューセッツとフランス間の海底ケーブルを切断しようした。

第2次世界大戦でも、英ケーブル敷設艦「ケント」がギリシャ沖でドイツの爆撃機によって撃沈され、同「リトリーバー」がドイツUボート(潜水艦)の魚雷攻撃で撃沈された。

冷戦中、米海軍潜水艦は、ソ連の海底ケーブルから情報収集をしようとして死者まで出した事実がノンフィクション本のBlind Man’s Bluff(日本語訳『潜水艦諜報戦』)に書かれている。

本年9月、ロシアと欧州をバルト海の海底経由で結ぶ天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」の4カ所でガス漏れが発生した。欧米のメディアは、水中ドローンか海軍特殊部隊が破壊工作を行ったのではないかと報じている。

今日では我が国と海外を結ぶインターネット回線の99%が海底ケーブルに依存しており、これを切断されると情報鎖国になる。海底ケーブルがそれほど重要なインフラであるにもかかわらず、所轄官庁は防護手段を有しない総務省になっている。

米国の場合、海底ケーブルの保全には、潜水艦の動きも探知可能な分散型音響センシング(Distributed Acoustic Sensing=DAS)技術導入の観点から、海軍も関与している。

防護に海自を関与させよ

海上自衛隊を列国並みに海軍と呼称することが最も望ましいが、現憲法下では無理なのであろう。海上自衛隊の英訳はMaritime Self-Defense Forceであり、Maritimeは「海洋」を意味する。航空自衛隊が宇宙における安全保障上の脅威に対応できるように名称変更するのと同様、海底における重要インフラ防護への認識を高める上でも、海洋自衛隊への名称変更が必要はないか。(了)
 
 

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第276回 事実と異なる偽情報には即刻反応すべし

航空自衛隊が航空宇宙自衛隊に名称変更なら、海上自衛隊は海洋自衛隊にすべき。海自が守る領域は海上の他、潜水艦が活動する海中や海底も含まれる。中でも海底ケーブルはサイバー戦でも物理的標的となる可能性あり。また防研の中国レポートで指摘された認知領域にも要注意。事実と異なる偽情報には即刻反応すべし。