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2023.04.10 (月) 印刷する

中国気球のスパイ活動は我が国安保に直結 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

4月3日に米NBCニュースは、米政府高官2人とバイデン政権の元高官の話として「2月にアメリカを横断した中国の気球は、軍事基地における電子信号をリアルタイムで北京に送信し、時には8の字を描くように飛行していた」と報じた。

これに対して、我が国では自国の安全保障に直結する問題だという報道や識者コメントがなかったように思われる。しかし筆者は我が国の安全保障にかなり影響のある問題と認識している。
 

日米共通の兵器システムが危ない

自衛隊と米軍の兵器システムは、相当部分共通している。具体例として弾道ミサイル防衛を担うイージスシステムや地対空パトリオットミサイルがある。

例えばパトリオットミサイルシステムは、射撃管制車両、レーダー車両、アンテナ車両、情報調整車両、無線中継車両、ミサイル発射機トレーラー等10台以上の車両により構成され、それらは極超短波(UHF)、あるいは超短波(VHF)で交信している。これらUHFやVHFで交信する電子信号は宇宙空間を飛行する衛星で探知することは距離的に難しいが、対象物体から比較的距離が近い大気圏内を飛行するバルーン(気球)では探知できる。筆者が、米軍によるバルーン撃墜直後の「今週の直言」(2月6日付)で「(偵察衛星では入手できない)司令部と配下部隊間の交信を収集する目的があったのではないか」と推測した理由はここにある。

こうして探知した周波数の特性を収集・解析して、有事に妨害可能な電磁波で使用不能にすることにより、相手システムを無力化できる。

日米で共通しているシステムはイージスやパトリオットだけではない。我が国の主力戦闘機であるF15や対潜哨戒機のP3Cも共通のシステムだ。したがって米軍の兵器システムの電子信号が中国の偵察バルーンに探知されることにより、自衛隊の兵器システムの運用が危うくなる可能性があるし、逆に自衛隊システムの電子信号が探知されることにより、米軍のシステムの運用が危うくなる可能性もある。
 

脅威は日本の方が深刻

報道によると、米国に飛来したバルーンは、探知した信号をリアルタイムで北京に送信していた。探知した周波数帯に対して妨害電磁波を発射する電波妨害機を米本土に直ちに差し向けることはできないが、距離的に近い日本に対してはそれが可能である。

我が国でも3年前に東北や九州地方で、同様のバルーンが発見された。当時の河野太郎防衛相は「(行き先は)気球に聞いてくれ。我が国の安全保障に影響はない。」と断言していた。防衛相としては余りにも不見識な発言ではなかったか。

また昨年末に公表された防衛力整備計画には、宇宙・サイバー・電磁波領域における能力の向上が謳われているが、防衛相の意識と、今回の報道を自国の安全保障問題として捉えないメディアをはじめとする国民の安全保障感覚が問題だ。(了)
 
 

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第354回 中国の偵察気球の続報

米国の報道で、気球から中国へ情報が送られていたという。日本も危機感を持つべき。なぜなら兵器システム(PAC3など)は米国と同じものが多い。兵器システムは特定の周波数の電波で連結。これがバルーンによる収集対象になり、延いては兵器システム妨害に繋がりかねない。