大型連休前の各紙が九州電力、中国電力、中部電力、関西電力の4社による「電力カルテル」に対する過去最大の1010億円の課徴金を報じていた。「カルテルは電力自由化を骨抜きにする違法行為で、自社の利益を優先したコンプライアンス(法令順守)意識の希薄さを露呈した」「経済産業省は4社の入札参加や補助金交付を停止」「これらの電力会社の管内の県や市の地元自治体入札に参加させない動きが広がっている」と電力会社に厳しい記事が並んでいる。しかし、このような制裁を科しても、それによって上がる電気代のツケは国民が払うのだ。
電力会社排除で電気代が高くなる
例えば、「福岡県と福岡市、北九州市、宮崎県、鹿児島県は、庁舎や学校など公共施設で電力を購入する入札に、九州電力を参加させない処分を決めた。」(読売新聞西部本社版)とあるが、電力会社が入札できない場合、新電力が入札すると、落札価格が高くなる懸念が生ずる。新電力はどこも、燃料費の高騰により経営が苦しく、電力を売れば売るほど赤字が膨らむので、値上げをしないとやっていけないのだ。
東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、電力会社に対して強い立場になった経産省は、宿願であった電力自由化政策を推進した。この時、多くの識者が「欧米で電力自由化の成功例がない。電力は需給バランスが崩れると不足になる可能性が高く、電力価格が上がる可能性がある」と指摘していた。
また、電力の卸売市場では各電力会社が原価を割るような「赤字すれすれ」で電力を供給し、これを携帯電話会社や商社系の新電力が利益を上乗せして消費者に販売している。この見せかけの電力自由化政策の下で、実際に発電しているのは、電力会社の水力、火力、原子力発電と、一部の新電力の小型火力発電や再生可能エネルギー(太陽光、風力)発電だ。曇天・無風になれば再エネ電力は必ず不足する。どこも供給責任を負わないのだ。
欠落していたエネルギー安保への備え
ドイツでは、再エネの普及とともに、出力変動分のバックアップとして使われる火力発電所の設備利用率が低下し、大手電力の経営が悪化し、新電力に取って代わられた。日本でそれを目の当たりにした電力会社の幹部が、揃って役所に出向き、電力自由化政策に反対したが、「国に逆らうのか、と机をたたいて怒鳴られた」と悔しさをにじませていた。
ドイツはかつてロシア産の安い天然ガスや石油を大量に輸入できたので、経済は順調であったが、欧州の風が弱まり風力発電量が減り、エネルギー価格が上がりだしたところにロシアのウクライナ侵略が加わって、欧州のエネルギー価格は高騰した。
我が国でも天然ガス価格の高騰で、新電力が続々撤退に追い込まれている。我が国の電力自由化政策にはエネルギー安全保障に対する備えが欠落していたのだ。「物が不足すれば市場価格は上がる」という市場原理を忘れ、机をたたいて強行した電力自由化政策は、お粗末であった。(了)