拙著『でっち上げの徴用工問題』の韓国語訳出版によって2021年に本研究所の日本研究特別賞を受賞した韓国のメディアウォッチ代表の黃意元氏が、言論活動を理由に検察に起訴され、一審で実刑判決が出て身柄を拘束され、今、二審で闘っている。
記事を理由に記者を逮捕
メディアウォッチはネット上でニュースを発信するメディアであると同時に、単行本を出版する出版社でもある。そのメディアウォッチは2016年11月から、当時の朴槿恵大統領が友人である民間人の崔順実氏に国家機密を漏洩して国政に不当に関与させたという中央日報系のケーブルテレビJTBCの報道がねつ造だという批判キャンペーンを張った。キャンペーンを主導したのはメディアウォッチを実質的に主宰している辺熙宰顧問だったが、黃代表も積極的にそれに加わり、連日ネットニュースを発信し、単行本を出版し、JTBC社前や同社社長兼ニュースキャスターだった孫石熙氏の自宅前などでデモを行うなどの活動をした。
それに対してJTBCが2017年1月と12月に刑事告訴した。同年3月に朴槿恵大統領の弾劾が憲法裁判所により決まり、同年5月に文在寅政権が発足して、同政権下の2018年5月30日、辺顧問が逮捕され、6月18日には検察が辺顧問と黃代表らをJTBCと孫石熙氏らに対する「虚偽事実摘示による名誉毀損」の罪で起訴した。
記事を理由に言論機関の記者を逮捕することは言論の自由の著しい侵害だとして、筆者を含む外国人識者も憂慮を表明する意見書を出し、元「月刊朝鮮」編集長の趙甲済、本研究所客員研究員の洪熒、「反日種族主義」編著者の李栄薫の各氏を含む韓国の知識人130人が逮捕を批判する声明を出した。
2018年12月ソウル地裁は辺氏に懲役2年、黃代表に懲役1年の実刑判決を下し、黃代表は法廷で身柄を拘束された。すぐ2人は控訴し、2019年5月に保釈された。
一方的な裁判指揮
その後、二審の裁判が現在まで続いている。一番の争点は2016年10月に孫石熙氏がキャスターを努めるJTBCの看板番組「JTBCニュースルーム」が特ダネとして報道した、崔順実氏が朴槿恵大統領の演説修正に使っていたとされるタブレットパソコンの真偽だ。黃代表らは、そのタブレットパソコンは崔氏が使っていたものではないと主張し続けてきた。そして、二審でその主張を裏付ける多数の証拠や証人を申請したが、裁判官がそれらをいっさい採用せず、検察の主張を一方的に受け入れる裁判指揮を行っていると黃代表らは主張している。
具体的には、問題のタブレットパソコンの通信契約をし、料金を払っていたのは崔氏ではなく当時の大統領府行政官の金ハンス氏だと黃代表らは主張し、それを証明する証拠を提出し、金氏を証人として呼ぶことを裁判官に求めたが却下された。また、タブレットパソコンの中に入っているデータを被告人側にも開示するよう求め、いったんは裁判官がそれを認めたが、その裁判官が異動した後、突然それが却下された。7月22日、趙甲済氏ら55人の知識人がこのような裁判所の裁判指揮を批判する声明を出した。
言論機関従事者がその言論活動を理由に刑事裁判を受け、実刑判決を受けて刑務所に入れられることは、自由民主主義国家では普通は考えられない事態だ。韓国の自由民主主義を守るため裁判所の賢明なる判断を期待したい。(了)