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国基研ろんだん

2025.04.30 (水) 印刷する

遺骨収集超党派議連に感ずる不安 渡久地政見(団体職員)

先の大戦中に内外の戦地で亡くなった戦没者は約240万人。そのうち今もなお半分近い約112万柱の遺骨が沖縄や硫黄島といった日本国内のほか、海外の広漠とした大地や太平洋の島々、暗い海底に残されている。

戦後80年を迎えるが、遺骨の収集は遅々として進んでいない。その中で、遺骨収集促進を目的とした超党派国会議員連盟が5月8日に設立される。遺骨収集に自ら参加した体験から、この超党派議連について考えを述べたい。

名簿に見当たらぬ積極関与議員

「戦没者のご遺骨等の収集の加速化を図る国会議員連盟(仮)」は自民党の浜田靖一元防衛相が会長に就任し、阿部知子(立憲民主党)、河村たかし(日本保守党)、鈴木敦(参政党)、中司宏(日本維新の会)、浜田聡(NHKから国民を守る党)、福島伸享(衆院会派「有志の会」)、村岡敏英(国民民主党)、山川仁(れいわ新選組)の各議員が発起人だ。

設立趣意書にも書いてあるが、遺骨の収集を加速するため、平成28年3月に戦没者遺骨収集推進法が成立した。ここでは遺骨収集が「国の責務」だと初めて明記されているが、迅速には進んでいない。その考えのもと、超党派国会議員連盟ができることは喜ばしい。だが不安は募る。

会長や発起人の中に、これまで戦没者遺骨収集に本気で関わってきた議員はいるのだろうか。せいぜい慰霊祭や戦没者遺骨引き渡し式に出席しているぐらいではないか。議員個人の公式サイトを見ても、熱量が伝わってこない。戦没者遺骨収集に親身になって協力してきた議員の名前が会長や発起人の名簿になぜ出てこないのか。戦後80年に合わせてドタバタ結成を決めた感が否めない。

米は協力強化に前向き

米国防総省捕虜・行方不明者調査局(DPAA)のケリー・マッキーグ長官が3月28日から5日間の日程で来日し、4月1日には福岡資麿厚生労働相と会談した。マッキーグ長官はDNA鑑定より高度で迅速に(日本人の遺骨かどうか)判別可能な「安定同位体分析」を本格導入するように福岡厚労相に要請した。来日中は複数の国会議員とも面談し、遺骨収集活動における日米協力をより一層強めるよう発言。また、太平洋戦争末期の激戦地・硫黄島(東京)で戦死した米兵の遺骨収集のため、2024年に初めて日米合同の調査団を現地へ派遣したことに言及した(共同通信インタビュー)。

少しずつではあるが米国DPAAとの協力が深まっている。この流れを加速するよう超党派議連にはお願いしたい。しかし、今回のマッキーグ長官の来日中、発起人の中で面談した者はいるのか。著者が持っている情報では見当たらない。

必要な厚労省の意識改革

収集の加速化を図るというのではあるならば、米国との協力は不可欠だ。過去に厚労省は何かと理由をつけてDPAAとの協力を拒んできたと聞く。新議連は厚生労働省の悪習に倣うか、それとも米国との協力を深めるか。設立趣意書に「関係省庁の連携を後押しし、官民が一体となって遺骨収集の加速化を図る」とあるが、関係省庁の意識を変えなければ遺骨収集の加速化を図れない。(了)
 
 

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渡久地政見 / 2019.08.29