なぜコメがなくなり値段が高騰したのか
昨年夏スーパーの棚からコメが消え、その後その値段は2倍に高騰した。JA農協や大手卸売業者の民間在庫は昨年の5月頃から今年の2月現在まで、前年同月比で40万トン減少している。
3年前から農水省とJA農協は減反を強化して米価を上げようとしていた。2023年産米は作付け前から減反で前年比10万トン減少していた。さらに、猛暑の影響を受け白濁米などの被害が生じ、合わせて40万トン程度不足した。このため、昨年の8月から9月にかけて、本来昨年の10月から今年の9月にかけて消費される24年産米を先食いしたので、昨年10月時点で既に40万トン不足していた。同じ40万トンの不足でも、コメが消費され始める昨年10月より半年以上経った現在の方が、需要に対する供給不足の度合いは大きい。だから、需要と供給のバランスで決まる米価は昨年10月から最近まで徐々に上がってきたのである。
ウソと欺瞞に満ちた農水省の対応
昨年夏から農水省はウソと訂正を重ねてきた。その裏に一貫しているのは「コメ不足を認めたくない」「備蓄米を放出して(も)米価を下げたくない」という態度である。
まず、減反強化と猛暑で23年産米の実供給量が減少していることは、23年秋の等級検査で農水省は分かっていたはずなのに、コメは不足していないと言い張った。昨年夏のコメ不足を、南海トラフ地震予測の臨時発表で家庭用の備蓄需要が急増したからだと農水省は説明した。しかし、それなら家庭の備蓄増加で民間在庫量はその分減少するはずなのに、そうではなかった。また保存のきかない精米を備蓄すれば、その後のコメの購買量は減少して値段は下がるはずなのに、逆に上昇した。
農水省は昨年8月、大阪府知事からの備蓄米放出要請を拒否し、コメの品薄は卸売業者が在庫を放出しないからだとして、責任を卸売業者に押し付けた。在庫には金利や倉庫料の負担が伴う。それでも端境期や不作時への対応などで在庫は持たざるを得ない。自由に在庫を処分できるなら、米価高騰の中で卸売業者は在庫から販売し、大きな利益を上げたはずである。
農水省は、9月になれば新米(24年産米)が供給されるので、コメ不足は解消され米価は低下すると主張した。だが、逆に価格が上昇すると、今度は流通段階で誰かが投機目的でコメをため込んでいて流通させていないからだと主張した。この量はJA農協の在庫の減少分21万トンだと主張した。同時に24年産米の生産は18万トン増えているので供給は不足してなく、「流通の目詰まり」や「消えたコメ」に問題があるという主張を展開した。
「消えたコメ」はなかった
しかし、生産が18万トン増えて卸売業者も含めた民間の在庫が前年同月比で44万トン減少した(今年1月農水省調査)なら、62万トンが消えているはずである。62万トンは最大のコメ生産県新潟の生産量を凌ぐし、東京ドームの敷地に30キログラムの袋を敷き詰めて20メートルほどの高さになる。これだけの量を転売業者が隠せるはずがない。しかもコメは適切に保管しないとカビや虫が湧いたりネズミに食べられたりするので、1万トンのコメを保管するのに年間1億円かかる。
農水省は今年に入りこれまで把握してなかった小規模事業者の在庫調査を行ったが、これら業者は在庫を増やすどころか、逆に前年比で5956トンも減少させていた。「消えたコメ」はなかったのである。そもそもコメには流通履歴を記録するトレーサビリティ法があるので、コメが消えることはあり得なかった。農水省はまた、前年比で19万トン在庫が増えているとしたが、生産増加の18万トンに比べ在庫が1万トン増えただけで米価急騰を説明することはできない。
備蓄米放出しても米価が下がらない仕掛け
農水省がウソを重ねてきたのは、備蓄米を放出して米価が下がることを恐れたからだ。官邸筋から言われて放出せざるを得なくなっても、消費者に近い卸売業者や小売業者ではなく放出に反対してきたJA農協に販売した。備蓄米が放出されてもJA農協が従来卸売業者に販売していた量を制限すると市場への供給量は増えない。さらに、農水省は1年後に放出量と同量を買い戻すという条件を付けた。米価上昇で今年生産者が生産を増やしても、それを上回る量を市場から回収すれば、その時点で米価はまた上昇する。
主食用の輸入枠を増加するという案に、農水省は主食であるコメを外国に委ねてよいのかと反対した。しかし、主食であるコメを減産することに農水大臣は問題を感じないようだ。減反をやめ、1000万トン生産して300万トン輸出していれば、国内での不足分だけ輸出を減らすことで、今回のような騒ぎを回避できた。戦前、農林省の減反案を潰したのは陸軍省だ。減反は安全保障とは相容れない亡国の政策である。
減反・高米価政策でなくても、欧米のように政府から主業農家へ価格低下を補う直接支払いを行えば、農家の所得を維持しつつ米価を下げて消費者の家計を安定させることができる。しかし、減反を廃止して米価を下げると零細な兼業農家がいなくなり、JA農協はその兼業収入を預金してもらえなくなる。農水省の天下り先も縮小する。ここに農政の闇がある。(了)