公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2025.05.01 (木) 印刷する

出生数激減への危機感を強めよ 工藤豪(日本大学文理学部非常勤講師)

総務省によれば、2024年10月1日現在の全国人口は1億2380万2000人で前年比55万人の減少、うち日本人は1億2029万6000人で前年比89万8000人の減少となった。また、2024年の社会増減は34万人の増加だが、日本人は2000人の減少であり、外国人の34万2000人増加が大きい。一方、自然増減は89万人の減少(出生数72万人、死亡数161万人)、であり、過去最大の減少幅となった。危惧すべきは出生数の著しい減少であり、日本人のみでは出生数が69万人前後と予想され、70万人を割ることが確実視される。

合計特殊出生率に地域差

出生の動向を説明する時、出生数とともに用いられる指標が合計特殊出生率である。合計特殊出生率とは、1人の女性が生涯に産む子ども数の平均を示すが、ある年の女性の年齢別出生数を同年齢の女性人口で除した数値である年齢別出生率を計算し、この値を15歳から49歳の年齢範囲で足し上げた値である。

2018年から2022年における市区町村別にみた合計特殊出生率をみると、上位は鹿児島県と沖縄県の離島や人口の少ない町村、長崎県や熊本県も含めた九州に集中している。20歳代で結婚、出産して子どもを3人以上持つ世帯が多くなっているのは、歴史的、文化的な要因によるところが大きいといえよう。しかし、若年層の流出傾向により、合計特殊出生率は高くとも出生数は減少している自治体が少なくない。

一方、下位は京都府、大阪府、東京都などの都市部に集中しており、これは未婚者の流入が著しいことに起因する。合計特殊出生率の分母には未婚女性も含まれるため、進学や就職等で多くの未婚女性が転入してくる都市部は合計特殊出生率が低くなる。故に都市部では、合計特殊出生率は低いが出生数は増加傾向もしくは一定数を維持している自治体も少なくない。

自治体の特性に応じた重点施策を

自治体における合計特殊出生率の地域差に関して、これまで定量的な分析や典型自治体へのヒアリング調査結果の比較分析などが行われてきた。その中で、出生数を一定数維持するとともに合計特殊出生率が高い自治体においては、子育て支援施策の充実している自治体も多い。しかし、その他にも以下の重要な特徴が共通して存在する。まず、企業誘致等に成功し若者の雇用先を確保している。そして、JRや高速道路が通るなど交通の要衝に位置しており利便性が高い。最後に大都市のベッドタウン的役割を担い住宅環境が整っているという点である。

つまり、合計特殊出生率が高い自治体の少子化対策を、他の自治体が真似して同じような取り組みを実施したとしても、上述のような特徴が揃わなければ、同様の効果が得られるとは限らないということだ。では、各自治体はどのような対策を展開すべきなのか。それは、これまでの「子育て支援」に重点を置いた施策からの転換を図るとともに、地域特性に応じた重点施策の実施が求められる。

まず、出生数が減少し合計特殊出生率も低水準となっている自治体は、「移住・定住支援」と「結婚支援」を少子化対策の両輪とすべきである。しかし、それは苦難の道程であり、県や国からの多様な支援・サポートが必要不可欠となろう。

一方、出生数は一定数を維持しているものの合計特殊出生率が低い自治体は「結婚支援」に重点を移すべきである。若年層が著しく流入することで一定の出生数は保つことができても、未婚の若者が多いことは合計特殊出生率の低下に直結するからだ。

そして、合計特殊出生率は一定の水準を維持しているものの出生数が著しく減少している自治体は「移住・定住支援」に重点を移すべきである。夫婦の子ども数は一定水準を保つことができても、若年層の著しい流出は地域の出生数減少に直結するからだ。

少子化は深刻な水準

近年、わが国は少子化に慣れてしまったように思えてならない。今の少子化が想定を大幅に上回るスピードで進んでいるにもかかわらず、である。例えば、2002年の国立社会保障・人口問題研究所(社人研)による人口推計をみると、2024年の出生数は87万人で、70万人を割るのは2047年と推計されていたのであり、今、予想より23年も早く70万人を割ろうとしている。また、出生数100万人を維持していた2015年から、わずか10年の間に出生数が約30万人減少しているのだ。

現在のゼロ歳児は、20年後、30年後に子どもを産み育てる世代となっていく。現在、30歳の女子人口が62万人前後でも出生数は70万人を割ろうとしている中で、30年後に30歳の女子人口は34万人前後ということが確定していることに対して危機感を持たなければならない。わが国の少子化は極めて深刻なレベルにあることを国民全体で認識することが求められている。(了)