2020年12月の記事一覧
警官の発砲めぐる日米の反応の違い 島田洋一(福井県立大学教授)
産経新聞電子版12月19日付に、新潟県警の警察官による発砲死事件の記事が載った。読みながら、これがアメリカだったらどういう展開になるかと考えた。不幸な事件ではあるが、アメリカの状況を知る意味では参考になる。 暴動化しやすい米国の土壌 まず、「警官が発砲、包丁の男性死亡 新潟県警『適正使用』」と題する、当該記事を引いておく。 18日午後8時50分ごろ、新潟市西蒲区の住宅に通報...
「原子力問題研究会」政策提言から1年 奈良林直(東京工業大学特任教授)
国家基本問題研究所の「原子力問題研究会」が2019年12月4日に「日本に原子力発電を取り戻せ」と題して政策提言を行ってから1年余りが経過した。 提言は原発の重要性に対する国民の認識拡大に一定の成果をあげたと自負しているが、残念ながら国の政策に十分生かされてきたとまでは言い難い。以下、提言からの1年を振り返り、何が生かされ、何が問題点として残されたままかなどを改めて整理してみたい。 菅...
中国の経済世界一は一時的 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
英有力シンクタンク「経済経営研究センター(CEBR)」は12月26日公表した世界経済の年次報告書で、中国の国内総生産(GDP)規模が2028年には米国を抜いて世界一になるとの見通しを示した。これは昨年時点の予測から5年も前倒したことになる。CEBRに限らず、中国が2030年前後に経済世界一に躍り出るとの指摘はいまや定説ともいえるが、問題はいつまでも続く保証はないということだ。 米国の国家情...
欧州の「中国離れ」をどう読むか 三好範英(読売新聞編集委員)
欧州の中国に対する見方が厳しくなっている。欧州委員会が昨年3月発表した「欧州連合(EU)-中国戦略見通し」は、中国を「別の支配モデルを宣伝する体制上のライバルの一面がある」と規定した。さらに、今年9月のドイツ政府の「インド太平洋指針」は、対アジア外交の原則として「同権に基づく多国間主義」「法規に基づく秩序」「普遍的な人権」などを列挙した。名指しこそしてはいないが、中国の近年の行動に対する牽制の意...
「一帯一路」から撤退迫られる中国 湯浅博(国基研主任研究員)
「一帯一路」を疾駆する列車が脱輪するのも、それほど時間はかからないのかもしれない。2020年12月12日付の英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は、「中国が世界から撤退する」との衝撃的な見出しで、中国の抱える海外貸付が多くの国で焦げ付いている事実を明らかにした。この経済圏構想は、投資家が二の足を踏む非効率なインフラであっても、習近平政権が「地政学のツール」として気前よく貸し付けてきたツケであろう...
今の中国に戦前の日本を重ねる誤り 髙池勝彦(国基研副理事長・弁護士)
月刊誌『正論』の令和3年1月号(令和2年11月末発売)に、安倍内閣で内閣官房副長官補を務めた兼原信克氏が「日本が主導すべき西側の対中大戦略」といふ論文を書いてゐる。 論旨は、中国の台頭について我が国は「自由で開かれたインド太平洋構想」を掲げ、主導権をもつて米国のバイデン新政権と向き合ふべきであるといふことで、異論はない。 世界制覇へ独走する中国 しかし論文の中に、「今の中国は、...
自衛隊を便利屋の如く使うな 火箱芳文(国基研理事、元陸上幕僚長)
自衛隊は12月、旭川市、大阪市の医療体制の逼迫に対応するため、知事の要請に応じ自衛隊看護官を数名派遣した。旭川では新規感染者数が減少傾向に転じたことで、派遣は予定通り21日で終了したが、今回の看護官派遣をはじめ、感染症関連や豚コレラ、鶏インフルエンザなどの災害派遣に自衛隊を安易にまるで便利屋の如く使ってはいないか。かつて陸上自衛隊に身を置いた者としてこのような派遣は釈然としない。 医療...
東地中海の境界紛争は対岸の火事ではない 黒澤聖二(国基研事務局長)
地中海東部の沿岸諸国間では海洋資源の獲得競争が激化している。その一部については、11月18日付本欄の拙稿『海図上でも争うイスラエルとレバノン』で指摘したが、問題はそれだけではない。 東地中海では、イスラエルとレバノンの他、エジプトとリビア、イスラエルと他のアラブ諸国など多くの対立があり、それぞれ問題が複雑に絡み合い、まさに「解けないパズル」の様相を呈している。 本稿では、地域大国トル...
国会は自衛隊の憲法明記を最優先せよ 有元隆志(産経新聞正論調査室長兼月刊「正論」発行人)
自衛隊を憲法に明記する。これが中国の攻勢で厳しさを増す国防の最優先課題であり、中国・武漢発の新型コロナウイルス対策の最前線でも昼夜問わず働いている自衛隊員に対する国会議員の最低限の責務ではないか。自衛隊の地位も明確にしないまま、国の守りの最前線に立たせ続けることは許されない。 コロナ対策より桜追及の野党 今年前半の通常国会で野党は、新型コロナウイルス対策よりも、首相主催の「桜を見る会...
〝反日駐日大使〟にアグレマン出すのか 久保田るり子(産経新聞編集委員、國學院大學客員教授)
韓国の文在寅大統領は日本が菅義偉首相に代わったのを機に日本に揺さぶりをかけようとしている。大統領特使として先月上旬、朴智元・国家情報院長を日本に送り込んだのをはじめ、下旬には、反日の急先鋒として名高い姜昌一・韓日議員連盟名誉会長を駐日大使として指名した。朴氏は日本側に1998年の「金大中・小渕恵三宣言」(日韓パートナーシップ宣言)のようなものを提案し、来年の東京五輪への協力も申し出た。しかし韓国...
朝日は日本を代表する〝保守新聞〟に 石川弘修(国家基本問題研究所理事・企画委員)
日刊紙の部数減が加速しているが、中でも朝日新聞の減少幅が大きく、今年8月の販売部数はついに500万部台を割り、499万部を記録した(月刊誌FACTAオンライン号外)。2009年まで維持していた800万部台から実に300万部を越す大幅減となったのは、単にネットメディアに押され、紙媒体が退潮したということだけでなく、立憲民主党などと共通した左寄りの、硬直化した偏向報道が読者離れを引き起こしたものとみ...
「夫婦別姓」と「少子化」は別問題だ 髙橋史朗(麗澤大学大学院特任教授)
選択的夫婦別姓制度をめぐる論議の攻防が正念場を迎えている。11月24日に自民党の「氏の継承と選択的夫婦別氏制度に関する有志勉強会」、25日に「『絆』を紡ぐ会」、26日に「保守団結の会」、12月1日と3日に「女性活躍推進特別委員会」、4日に同委員会・内閣第一部会合同会議を開催、8日に再び同合同会議を開催し、第5次男女共同参画基本計画案をめぐる自民党の論議を終えて、18日に男女共同参画会議で正式に決...
三島由紀夫の魅力と危うさ 先崎彰容(日本大学危機管理学部教授)
三島由紀夫と言えば、その壮烈な自死と晩年の急速な天皇への思い入れが、とかく注目されがちである。憲法改正による自衛隊の国軍化を主張し、戦後日本に覚醒を求めた。蹶起が1970年であることは象徴的で、この年開かれた大阪万博には、実に6400万人もの人びとが殺到した。この来客数は2010年に北京万博に抜かれるまで1位を記録しつづけた。つまり三島の自決は、日本人の関心が「政治的主張から経済的豊かさへ」と場...