公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

国基研ろんだん

2020.12.28 (月) 印刷する

中国の経済世界一は一時的 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 英有力シンクタンク「経済経営研究センター(CEBR)」は12月26日公表した世界経済の年次報告書で、中国の国内総生産(GDP)規模が2028年には米国を抜いて世界一になるとの見通しを示した。これは昨年時点の予測から5年も前倒したことになる。CEBRに限らず、中国が2030年前後に経済世界一に躍り出るとの指摘はいまや定説ともいえるが、問題はいつまでも続く保証はないということだ。

米国の国家情報会議(NIC)は1997年以降、4年毎にGlobal Trends(世界予測)という文書を出している。その最新版にある労働人口の傾向を表すグラフ(5頁)を見ると群を抜いた増加傾向を示しているのがインドであるのに対し、逆に群を抜いて減少するのが中国である。このグラフから予測されることは、仮に中国が2030年前後に世界第一の経済大国になったとしても、それは一時的なことで、いずれインドに労働人口で首位の座を明け渡すことを示している。

Global Trends 2030では「この結果、長期予測ではインドの経済力は21世紀を通じて成長し、中国の人口構成(高齢化)により世紀末には中国に取って代わる」(46頁)と記されている。

台頭するインド

米国防総省の政策担当次官室が1999年に纏めた『アジア2025』という予測文書がある。それによると中国とインドがアジアの大国となり、労働人口が減少する日本は力を失うとする内容で、当時GDP世界第2位を謳歌していた日本にとって大変ショッキングな内容であったことを筆者は良く覚えている。

現実に中国のGDPは2010年に日本を抜き、この頃から中国は上から目線で周辺諸国を見るようになり、2020年現在では既に日本の約3倍となっている。

1999年時点の予測で、既に2010年にはインドの若年人口は中国を抜くとのグラフが示されていた(197頁)。確かに、中国の生産年齢人口(15歳から64歳)は2010年から減少に転じ、総人口も2018年から減り始めている。対外経済進出を支える外貨準備高も2014年がピークであった。

2030年以降は国力低下

中国の経済が伸びるにつれて国防費も増額されてきた。いずれは日本の尖閣諸島も中国が勢力下に置こうと実力行使に出る懸念がある。中国にとって見れば、2030年以降は国力の低下が見込まれることから、この10年間が世界に影響力を拡大できる最後の機会と捉えているものと思われる。

しかし人口動態から予測すれば、少なくとも2030年まで日米豪印といった価値観を共有する国々としっかりスクラムを組んで、東・南シナ海や中印国境で中国の侵略を持ちこたえれば、その先は光明が見えて来る事がわかるのだ。