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2020.12.28 (月) 印刷する

「原子力問題研究会」政策提言から1年 奈良林直(東京工業大学特任教授)

 国家基本問題研究所の「原子力問題研究会」が2019年12月4日に「日本に原子力発電を取り戻せ」と題して政策提言を行ってから1年余りが経過した。

提言は原発の重要性に対する国民の認識拡大に一定の成果をあげたと自負しているが、残念ながら国の政策に十分生かされてきたとまでは言い難い。以下、提言からの1年を振り返り、何が生かされ、何が問題点として残されたままかなどを改めて整理してみたい。

菅政権も原発の重要性に言及

提言はまず冒頭で以下のような認識を示した。

「エネルギーの安定供給は国の基である。にもかかわらず、わが国はこの問題にまともに向き合ってこなかった。わが国はパリ協定に対応し、温室効果ガス削減にも果敢に取り組まねばならない。再生可能エネルギーの効率的な導入を図るとともに、今こそ、大規模安定・非化石電源である原子力発電の正常化に取り組まねばならない。すでに巨額の化石燃料輸入負担、再生エネルギー補助負担が生じている。原子力発電所の再稼働を進め、国民負担のさらなる増大を防ぐとともに、わが国の原子力技術を将来世代のために維持、発展させたい」

これに対し、米国のシンクタンクであるAtlantic Council(大西洋評議会)も、24基の廃炉が進む日本の現状に懸念を示し、地球環境保全とエネルギー安全保障の観点から原発の建替えや新設を積極的に進めるように提言している。

菅義偉首相は2020年10月、臨時国会の所信表明演説で、「2050年までに実質的な二酸化炭素の排出をゼロにする」と宣言した。次世代型太陽電池やカーボンリサイクルなどの革新的なイノベーションの実用化を見据えた研究開発を促進するとした省エネルギーや再生可能エネルギーの導入にも注力するほか、「安全最優先で原子力政策を進めることで安定的なエネルギー供給を確立する」とも述べた。

50%を超える再生可能エネルギーの導入が現実的かどうかしっかり精査する必要があるが、原子力を基盤エネルギーの柱の一つに置いた基本政策は評価できる。この方針をさらに進めてほしい。

規制体制の合理化は道半ば

国基研の政策提言で、原子力規制委員会に対し「科学的合理性を取り戻せ」と求めたが、わが国の規制体制の合理化は道半ばである。

大幅に遅延している原発の再稼働審査は、PWR(加圧水型原子炉)12基が合格し、BWR(沸騰水型原子炉)は、柏崎刈羽7号機、東海第二に加え女川2号が合格し計15基となった。しかし、現在審査中の原発は敷地内断層の審査が科学データを基にした審査へと進展を見せているが、行政手続法の標準2年の審査期間が申請から6、7年を経過してなお大幅に超過している。

この点に関しては、2020年12月3日の衆議院原子力問題調査特別委員会で自民党の細田健一議員が追及した他、規制に依って停止を余儀なくされた7年間の寿命の歴年から炉年への変更や40年運転の1回のみの延長についても、共産党の藤野保史議員がその根拠を質したのに対し、原子力規制委員会の更田豊志委員長は「政治に依って決まったことであるから、規制委員会としてはタッチせず、政治つまり立法府で改正可能である」と回答している。

残念ながら過重ともいえる対テロ対策が求められている「特重施設」の工事遅延を理由にした運転停止の可能性は残ったままだが、九州電力川内原発1号機は12月17日に運転再開し、同2号機は12月24日に送電を再開した。

しかし、約9カ月に及ぶ運転停止に伴う発電損失(電力不足を補うために火力発電所の燃料代)は数百億円に上る。これは最終的に電気の消費者の負担になる。コロナ禍で、景気が冷え込んでいる時期における追加負担になっている。

国のリーダーシップになお課題

2020年12月4日には、大阪地裁が関西電力大飯原発3、4号機の設置許可を取り消した判決を出した。上級審で判決が確定するまでは効果が確定しないが、このような判決が出ること自体、原子力規制委員会が常日頃、国民への分かりやすい説明を尽くしていないからだ。

地震で原発の機器が損傷するとすれば、それは金属の弾性域ではなく、変形が進んで塑性域(針金を曲げたときに曲げが残る状態)の問題である。実際には耐久性で大きな余裕を持って設計されていることを審査指針に明示すべきである。

政策提言は、「原子力の課題解決にリーダーシップをとれ」と国に求めた。これに対し、原子力技術の人材育成と原子力技術の維持・開発の推進、原子力発電所の建て替えや新設を図り、再生可能エネルギーと共生を図ることについては、検討が始まっている。

核燃料サイクルを構成する青森県六ケ所村の再処理施設についても2020年7月29日、新規制基準に基づく審査に合格した。だが、操業に向けて追加で要求された安全対策工事に2年程度かかるとされ、本格稼働はまだ先だ。

核のゴミ処理を着実に推進せよとの提言に対しては、北海道の寿都町と神恵内村が地層処分の文献調査に手を挙げて、議論の端緒となった。

提言では、万万が一の場合でも地元を汚染しないフィルターベント等の新規制基準に基づく安全対策を国民に分かりやすく説明し、防災訓練に反映すべきであるとしたが、この点でも対応の遅れが目立つ。特重施設の工事と同時にフィルターベントがPWRにも設置されたのであるから、国はより積極的に原子力への理解活動に取り組む必要がある。