公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2014.05.07 (水) 印刷する

米国「戦争権限法」と尖閣問題 浜谷英博(三重中京大学名誉教授)

 先のオバマ大統領の来日時、「尖閣諸島は日本の施政権下にあり、日米安保条約の適用対象である」と明言し、かつ共同声明として文書化された。しかし、大統領自身の初めての発言との重みはあるものの、その内容は歴代の国務長官や国防長官の発言の延長線上に過ぎない。まして“新型大国間関係”という帝国主義的構想を提唱する中国に理解を示し、同調するかのような配慮も怠らないとすれば、対米信頼度は低下するばかりだ。
 米国には1973年に制定された戦争権限法がある。歴史上、憲法規定を超えて拡大する一途の大統領権限に対し、議会復権の立場から歯止めをかけようとした法律である。ただし歴代大統領は、外交権を不当に制約する条項を含む法律として違憲の主張を重ねてきた。ところがシリアへの軍事介入を前にオバマ大統領は、まず先に米軍投入の承認を議会に求めた。米国社会の内向き傾向を背景に、世界の指導的立場より議会との責任分担を優先させた弱腰判断とも言える。米国の足元を見透かしたロシアの対応と、その後のシリア情勢の混迷は周知の通りである。
 ちなみに、戦争権限法第8条に矛盾した条項が併存している事実を知る人は少ない。日米安保条約を前提に読めば、同条a項(2)は「同条約から米軍の投入権限を推定してはならない」ことになり、同条d項(1)は、「同条約の効力を変更しない」と規定されている。注意すべきは、いずれの条項を適用するかの選択を含め、米国の大統領と議会が有権解釈できるという事実だ。
 さらに先の大統領発言や共同声明は、尖閣諸島への米軍の武力介入にレッドラインを引いたものではない。つまり尖閣周辺での日中武力衝突が発生したからといって、米軍が自動的に軍事介入するための約束でもない。中国が、シリア問題と後のクリミア併合問題でのアメリカの対応から何を学んだか、今や自国の領土は自国で守ることの当然の覚悟が、日本国民に求められている。