公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2014.10.20 (月) 印刷する

山田宏、秦郁彦両氏の発言と政治主義 島田洋一(福井県立大学教授)

 慰安婦問題の国際広報に関連し、次世代の党幹事長の山田宏衆院議員が、あるインタビューで次のように主張している。

 「韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領の名誉を毀損したとして、産経新聞の加藤達也前ソウル支局長がソウル中央地検から在宅起訴された。……韓国の『異様さ』を改めて感じさせる出来事だった。……日本政府は、今回の問題についてしぶとく世界に訴えていく必要がある。韓国の異様さが国際社会に伝わることは、慰安婦問題の解決に向けてもプラスになるからだ。日本はこれから、慰安婦問題に関する韓国の主張がいかに独善的でおかしいことかということを証明していかなければならない。そのためには、『韓国は国際社会の常識から外れた主張をする国だ』ということを世界の国々に正しく認識してもらうことが非常に重要だ」(夕刊フジ電子版zakzak、2014年10月18日)

 その通りだろう。韓国の「異様さ」を国際的に知らしめねばならない、というところまで関係がこじれたことは残念だが、日本の名誉と国益を守るためには仕方がない。

 韓国の朴槿恵政権は、日本を貶める宣伝を主任務とする官僚機構まで立ち上げた。日本がいかに「おとなしく」していようが、今後これらの機関には毎年予算が付けられ、なかば自動機械のように反日プロパガンダを続けていく。もはや低姿勢でやり過ごすという選択肢はない。

 反日・侮日宣伝にいそしむ限りにおいて、朴槿恵政権は「敵対勢力」であり、日本としては戦略的にその弱体化を図っていかねばならない。

 「次の大統領選挙で左翼候補が勝たないよう、『保守派』である朴槿恵への批判はほどほどにすべき」といった生煮えの配慮は、悪しき政治主義であり、国益を損なうだけに終わろう。仮に戦略的考慮に出るとしても、大統領選が終盤に入る3年先で十分だ。その際も具体的な条件を付け、「行動対行動」の原則で臨まねばならない。

 以上とは別に、慰安婦と朝日新聞に触れた秦郁彦氏の発言に、違和感を覚えた一節があった(産経新聞2014年10月18日付インタビュー)。

 「ただ、私は朝日バッシングはそろそろやめた方がいいのではないかと思う。今、朝日擁護は韓国メディアだけで背後には韓国政府もいる。慰安婦問題で中韓に日本の人権団体を加えて共闘態勢ができつつある中で、『居場所がなくなったから』と中韓側に朝日を追いやることになりやしないかと気になっている」。

 「追いやる」までもなく、朝日は久しく自主的に「中韓側」に立って、日本を精神的・物資的に武装解除させる運動の先兵ないし水先案内役を果たしてきた。秦氏は現代史家として優れた人だが、上記発言など、やはり、悪しき、生煮えの政治主義の一例と言わざるを得ない。